新しい世界への準備

読天文之

第1話差しのべられた二つの手

「あーっ、疲れた・・・。」

ボロいアパートの一階の一番端の部屋、そこがおれ・中山神室なかやまかむろの部屋だ。

今日は久しぶりに儲かった、セブンイレブンで大好物の赤いきつねを買ってきた。

これがおれの週一の贅沢、自慢では無いがおれは赤いきつねを週一でしか食えないほど、金がない。

おれの仕事は日雇い労働、工事現場に警備員にイベントの助っ人など、体力を使う仕事ばかりだ。

しかも稼いだ給料の九割で家賃と水道光熱費を払っている。

食事はセブンイレブンで全て解決、健康的ではないがそれを気にする余裕はない。

おれはこのまま、孤独に生きて死ぬんだとわかっていた・・・。

そう思いながら、赤いきつねを食べていると。インターホンが鳴った。

おれに客なんて来ない。きっと新聞の人だと思い、追い返そうと玄関を開けた時だ。

「神室兄ちゃん、久しぶり!」

「久しぶり、元気だった?」

おれは驚いた、そこにいたのは男女の中学生だった。

男の子は長谷部大和はせべやまと、女の子は長谷部神楽はせべかぐら。二人ともおれの親戚で、働きはじめてから一度も会っていなかった。

「神室兄ちゃん、家にこない?」

「そして、一緒に高校生になろうよ。」

おれは差しのべられた二つの手に、頭が追いつかなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る