第9話

初めに思いついたのは、遠距離恋愛を1年半続けているカヨコの顔だった。


 付き合って3年と1ヶ月になる彼女とは表面的にしか上手くいってない。彼女はJRの特急をフルに使って4時間の僕の地元に住んでいる。同じ高校で2年間同じクラスだったのがきっかけでつきあい始めて、卒業して、それぞれ別の大学に進んだ。


 長く付き合っていると、お互いの良いところも悪いところも全部見えてくる。遠くにいる時は相手のいい所ばかりを考えて、虹と同じように頭の中でどんどん美化されていく。


 月に1度あるかどうかのデートでは、美化された頭の中の彼女と実体としての彼女とのギャップに悩まされる。共に過ごしていない時間が長くなればなるほど、互いの共通項は減っていく。


ひさしぶりに会うと、例えばドライブなんかでぎりぎり黄色信号で交差点を通過するときの「危ないなぁ」っていう、そんな些細な一言にさえ僕は苛立つ。1年半で、僕も、彼女も、成長しているのだ。


 おそらく彼女にこの感動を伝えても彼女は喜ばない。完璧な虹が彼女の目の前に現れたとしてもきっと彼女は気がつかない。

 夜のデートでどんなに美しい星空が僕らの頭の上に輝いても、彼女はデパートのショウウインドウに映った自分の姿を見て、染めた赤系の茶色が元の黒に戻ろうとして、美しくない髪の毛を気にするのだ。

 遠く離れても同じ空の下にいるなんて、詭弁だ。


 彼女のことを一通り考えた後は、虹の存在を誰かに教えようという気持ちはなくなった。

 虹を見て喜ぶ人はもうこの虹を見ているし、喜ばない人はショウウインドウを見ているに違いない。

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