第4話
若松橋に着く前から、僕はずっと空を気にしていた。
虹のメカニズムははっきりと知らない。それでも水と光がそれを作り出すことは何かで聞いたことがあったし、雨上がりに曇りを通り越して一気に天気が良くなると、大抵そこに虹が現れることを経験的に知っていた。
2つ目の交差点をまた左に曲がり、若松橋に繋がる片側2車線の道路で東の空が開けた。
案の定、虹は目の前にかかっていた。家の窓からは反対側だ。右端から左端まで、虹は美しい放物線を描いていた。きれいな虹だと思った。
事故を起こさないよう、虹と前方とバックミラーを交互に見ながら原付を走らせた。
若松橋に着くと、僕は原付に乗ったまま歩道に上がり、エンジンを切った。
目の前の美しい虹を携帯電話のカメラを使って写真に収めようと思ったが、試してみる前から無理だと諦めた。写真に残す必要もなかった。今までに見た全ての虹を覚えているわけではないけれど、どこで、どんな状況で虹を見たかということさえ思い出せば、大抵の虹は実際に見た時よりもずっと美しい形でそこに存在していた。そういえば、ミスチルの歌にそんな歌詞があった。
青から紫を経て少しずつ赤へ変わろうとする360°の空を眺めて、それから濁流と化した浅野川を見た。女川と例えられるほどに大人しく、透明でなお物憂げないつもの浅野川にはほど遠かったけれど、それでも全てを飲み込むというほどの激しい流れだとは思わなかった。
虹やその他に僕を何か夢中にさせるようなものが無いのなら、きっとこの茶色い川をずっと見ていただろう。濁った川がどうやっていつもの透明で静かな川を取り戻していくのか、いつまでも眺め続けていただろう。
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