第13話 聖獣様の名前・・・ポチとかタマじゃダメ?

 聖獣様たちとの生活も二週間目を過ぎようとした頃―――


 最近は、朝食を食べた後、飼い主としてペットの健康管理のひとつとして運動の時間です。

 公爵家ともなると庭もちょっと大きな公園レベルの広さなので、庭を散策するだけでいい運動になります。


 庭師さんが優秀な為、毎朝散歩をしているというのに、毎回新しい発見をしています。花の種類の豊富さだったり、色のグラデーションを意識して植えているのか、一番素敵に見えるような魅せ方だったり、その時々の発見ではありますが、飽きが来ないように計算されていて、流石プロの仕事だと思いました。


 今日も朝食後、ペットの健康管理を兼ねた庭の散策をしています。

 朝の空気というのは、何て澄みきっているのでしょうか。

 胸いっぱいに吸い込む度に、清々しい気持ちになれます。


 空も青く、雲は白く、空気は澄んで、ペットは可愛い…そんな事を考えていると、

 二匹がそわそわしているのに気付きました。


「子狼さん、子虎さん、どうかしたの?」

 もじもじとして、とても言いづらそうな感じの二匹。


「あっ! もしかして……」


 二匹は少し俯きがちだった頭をバッと上げ、期待するようにリティシアを見ます。


「駆け回りたかった? 私の事は気にせず駆け回ってきて大丈夫だよ。」


 子狼さんも子虎さんも、走る事が大好きな種族なのでリティシアはそう考える。


 二人とも期待した分、虚脱感が来たのか、両耳をぺたりと伏せる。


『僕からは決して言うまいと我慢してたんだけど…』

 子虎さんが少し悔しそうに切り出す。

 隣にいる子狼さんも同意するように頷いていた。


『僕達の名前は子狼でも子虎でもないよ?』


 そこでリティシアは合点がいったように、両手をポンと叩く。

「名前をお聞きするのを忘れていましたね!」


 うんうんと頷きながら、二匹に「お名前は何ていうのでしょう、何てお呼びすればいいですか?」


『リティシアに付けて欲しいな。僕の名前』と、子虎さんが甘えるように言ってきた。


『我もだ!我の名前も名付けて欲しい。』子狼さんも続く。


(二匹の名前の名付け…重大な事をサラッと頼まれてしまった…)


「名付け…子狼さんがポチで、子虎さんはタマっていうのはどうかな?」


『悪くはないんだけど、何か適当にやっつけた感がする…』


(何かバレてる)


「じゃあ、子狼さんはユキ、子虎さんはスノウっていうのは?」

 前の世界で見かけた白い雪から取ってみた。


『いい感じの名前だ! 気に入った! 嬉しいよ!有り難うっ』

 子虎さん改めスノウが大喜びしている。

 そこまで喜ばれると名付けた甲斐がある。


 子狼さんも気に入ったようで、何度もつぶやいている。

『ユキ…ユキ…悪くないな。』

 噛みしめるように呟かれて、何だかくすぐったい気持ちになった。


 そんなに喜んでくれるなら、

 もっと早く名付けてあげたらよかったな。



 ユキとスノウと私は名付けた事でもっと身近な存在となり、さらに仲良しになれた気がしながら散策を再開したのだった。



 ポチとタマ、何で気に入ってくれなかったんだろう?

 悪くないと思ったのだけどなぁ。


 確かに前の世界でペットの名付けで困ったときの候補リストなどに必ずあるような名前だけれども。


 ユキとスノウはそれぞれにとっても似合ってる名前だと思うので、結果としてはいいのだけどね?



 私は、聖獣様たちと過ごしている事の重大さをよく分かっていなかったのだと思う。


 その夜の晩餐の時、お父様に「聖獣様たちを連れて王宮へご挨拶に伺う事になったよ。」と言われた時に、やっと“そういうことか”と気付いたのだった。

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