第496話 喧嘩稼業 喧嘩王・上杉均

「俺達の学んでいる“進道”は地上最強の空手である!!


俺達の進む道の先にあるものは最強!!


道が途切れれば道を作り、道を邪魔する者があれば排除する!!


テメェら黙って俺について来い!!」



上杉均は吼えた。


上杉均は優しい男である為、強い男だ。


彼は中学生の頃、クズの中のクズだった。


街で知らない者はいないほどのクズであった。


ヤクザが中坊に、自分の世界と中坊の世界は違うと


言うように、ナイフを出して、上杉均の口の中に


ナイフを入れた。


上杉均はクズだった。


だから、これなら正当防衛として殺せると思った。


そして彼は人中に殴りつけた。


ヤクザは手を前に出して、もうやめてくれと言わんばかり


にしたが、上杉均は急所に狙いをつけ、更に殴りつけた。


そして、倒れたヤクザの顔面に顔面砕きを入れた。


ヤクザは病院に運ばれたが、死んだ。


ヤクザから仕掛けた事は、目撃者が数人いた為、


正当防衛とされた。


しかし、空手の師匠は上杉均の事を理解していた。


そして、破門された。


上杉均にとって空手は全てだった。


それ以外に自信が持てる事は、一切何も無かった。


そんな上杉均を拾った空手家がいた。山本陸という最強の空手家だった。


その山本陸の一番弟子として、精神と体を鍛えられた。


上杉均は人間味が強く、人に優しく、誰もが尊敬する人物になっていった。


ヤクザの報復は、上杉均の新たな師匠である山本陸が裏で動いて、報復は無かった。


それから長い年月が経ったある日、上杉均はある事を知ることになった。


上杉均が殺したヤクザは師である山本陸の兄弟だった。


山本陸の最後の肉親であり、住む世界は違うが仲の良い兄弟だった。


山本陸は田島 あきらに不意打ちを食らい左目を失った。


田島 彬が日本を去ってアメリカに行く前に、倒すべき三人の男がいた。


空手家の山本陸。富田流古武術の入江無一。合気道の芝原剛盛。


この三人の最強の漢たちを、田島彬は狙った。


山本陸は左目を不意打ちで左目を失い。


不意打ちをしたのは入江無一だと、勘違いした上杉均にアバラを折られていた


入江無一は、意識不明の重体となった。


芝原剛盛は、二人が不意打ちを食らったことを知っていた。


一芝居うって彼は逃げた。


山本陸は片目でも勝てるように修業に出て行った。


その際、上杉均に後は任せたと言ったが、上杉均は断った。


「塾長が居なくなって、俺がここに残れば進道塾が割れます」


自ら破門を申し出た。そして破門にされた。


二代目の山本海になり、人は離れて行った。皆がそれぞれ看板を立てて


分裂して、誰も居なくなった。山本海は上杉均が居なくなった時、心の中で


喜んだ。しかし、自分では誰もついて来ない現実を知った。


山本海は安アパートで暮らしていた上杉均に会いに行った。


二代目が土下座をしようとした時、上杉均は止めた。


彼は泣きながら、皆が離れていき、兄弟さえも離れていき、自分は弱くて、


使えなくて、一人になっちまった、と本心をさらけ出した。


「それでも進道塾を捨てずに守ってきた……10年間も孤独に耐えながらも、そしてその進道塾を守るために、会いづらい俺の前に現れてすべてを吐露とろしてくれている。やっぱり、あなた以外に塾長の器のある者はいなかった」


山本海はサッと身を退いて土下座して「進道塾を助けてください」と言った。


「塾長、違います。塾長は“破門を解く。進道塾のために戦え”とさえ言ってくれればいいだけです」


喧嘩王、上杉均が帰ってくる!!!


上杉均の破門が解かれるという報せが全国の進道塾各支部に伝わった。


それを知った塾生が全国から本部道場に集まった。


全国から集まった塾生は道場から溢れ出し、道路を埋め尽くした。


その数、5万人。


「進道に喧嘩を売ったキックの川口も、例えそれが国民の宝と言われる柔道の関でも!! 横綱の金隆山でも!!! 田島彬でも!!! 俺たちの進む道の邪魔になり

進道の最強を阻むものは、俺の拳ですべて排除する。最強への道は俺が作る。


てめぇら黙って俺について来い!!」


五万人がひとつとなり、「押忍」と吼えた。10年の月日を経て再び一つになった。


進道塾の咆哮は激しく空気を揺らした。本物の漢、上杉均の闘いが始まる。


信念とはそういう事を言う。誰かに何か言われた程度で揺れるのは、信念では無い。


己を強くするには信念を貫き続けるのが、絶対に必要なのだ。

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