第7話 強欲

満たされない。生まれながら満たされているはずなのに足りない。全てを与えられても足りない。他者の物を奪っても足りない。あぁ私は何でこんなにも渇いているのだろう。たとえそれが余分であり、破滅に繋がると知っていてもこの欲が止まることはできなかった。


「君から話とは珍しいね真門まもん。それとも兄さんと呼ぶべきかな。」


ソファーに座っている生きた人形、悪七嶺亜あくしち れいあは目の前に座っている執事の七家真門しちいえ まもんに語りかける。その声には珍しくこの状況を楽しんでいる様な感情がみえる。


「私は貴方と違い生まれながらにして完璧な存在として作られた。貴方は私に比べるべくも無く完全な出来損ない。駄作だった。それにも関わらずあの方は…」


七家真門の声は対象的に悲観的な感情があるからみえる。


「完成された君ではなく、駄作である僕を贔屓した。君にはそれが理解できなく不愉快なのだろ。」


口を異常なまでにつり上げて笑う人形はまるであの男の様。


「貴方は所詮はあの方のいっときの遊び道具でしかないと思っていました。それも狂った人間同様のただの暇つぶしのお人形。」


「それについては間違いないよ。僕も君も人間もヤツにしてみれば玩具でしかない。全ては暇つぶしのためさ。大概のことができるから、くだらない遊びに真剣になるのさ。だからこそ完成された君ではなく、不完全だった僕の方を好むのさ。」


所詮はなにもかもが神様の遊戯なのかもしれない。


「そうかもしれませんね。そうだとしても私は貴方から全てを奪わなければどうも気が済まないのですよ。完成されているのに足りないと思うなら他者から奪うしかないでしょう?」


生まれながら老人の姿の怪物の本質が叫ぶ。強欲それは暴食や色欲等と違い特定の対象がない欲求。際限が無く、つきることが無い欲求。


「やっぱりお互いそうなる運命なんだね。」


老人とは対象的に何も持たずに生れた人形。嫉妬それは他者を妬む負の感情。他者と比較するが故に芽ばえる感情。それは羨望でもあり憎悪でもある。

互いに本質は違うものの両者は今、相手の全てを欲した。

老人の姿が変わる。狐のような怪物の姿。しかし、その狐の怪物が再び形を変える。人間の身体に2頭のカラスの頭をもった異形の姿。今までの未熟な模造品とは明確に違う最高クラスの悪魔の写しがそこに顕現した。

力の差は比べるまでも無いはずだった。悪七嶺亜がどんなに力をつけようが到達することができない完成品が目の前にいる。一瞬のうちに七家真門が全てを手に入れ終わるはずだった。

しかし、その悪魔は蛇のような怪物に身体のいたるところを噛み砕かれ呆気なく倒れてしまう。


「何故だ。何故、私が負ける。私の方が強いはずなのに、よりにもよってこんな出来損ないに負けるなど。」


悪魔の姿は消え再び傷だらけの老人の姿が現れる。


「君は単純に欲が強すぎなんだよ。そんなのだから自分か僕かを選ぶことができなかった。僕に勝つならか弱い老人の姿の方が有効なのは知っていただろう。君はわりきれない気持ちを誤魔化す為だけに力を使ってしまったんだ。」


片方の道しか無いのに無理やり両方を取ろうとした。憎悪の対象であり、自分の敵である存在にも関わらず惜しいと思ってしまった。結果、自分で自分が敗北する要因を最後に作ってしまった。

その矛盾は悪魔というよりは人間の…。


「最後に何もかも失ったがようやく飢えがおさまった。お前はもっと苦しんでから地獄に来い。」


最後にそう言い残し老人は目を閉じた。人形はその身体を動かなかった手で抱え蛇の怪物に食べさせた。


「最後に自分だけ満たされた顔しちゃって。本当、嫉妬するよ。」


「今までありがとう。」


7話完 強欲

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る