4日目 紙飛行機

 神棚に置いてあった紙飛行機が喋りはじめたのは、おじいちゃんと通勤を始めて三日目の夜だった。

 おじいちゃんのたっての希望で、私は彼を職場まで連れて行くことにした。元通りの鍵の姿になれば、おじいちゃんが自分でも言っていたようにちょっとおしゃれなアンティークアイテムに見える。通勤鞄にチャームみたいに付けておくだけで、色々な物を見ることができて楽しいようだ。

 その日も帰宅して、手洗いうがいのあとお爺ちゃんを鞄から外してやろうとしたところで、低い声が響いて飛び上がるほどおどろいた。

「おれも連れて行ってくれよ」

 おじいちゃんが喋り出した時、これ以上おどろくことはもうないと思ったけど、こんなにすぐ訪れるとは。とはいえ私も二回目である。おそるおそる、声の方を見上げた。

「おれも、この家の外が見てみたい」

 挨拶もなしに喋り始めたのは、父が作った紙飛行機だった。父はよく飛ぶ飛行機を作るのが上手な人だった。厚手の紙をきっちり折って作ったそれは、時間が経っても鼻先をツンと伸ばしてえらそうに神棚からこちらを見下ろしている。

「なんじゃおぬしは」

「この家にあんたより昔からいる付喪神だよ。あんたばっかり外に連れ出してもらえて、ずるいじゃないか」

 付喪神って、こんなに身近にいるものだったの? 訳が分からなくなりかけながら、私はあのうと手を上げた。

「あの、貴方って、ほんの数年しかそこにいないと思うんですけど、本当に付喪神なんですか?」

「おいおい、大事なのは年数じゃなくて気持ちの強さだぜ、お嬢ちゃん」

 もっともらしいことを言い、紙飛行機は微笑む。はあ、とよく分からないまま返事すると、とがった鼻先を一生懸命伸ばして私に訴えてきた。

「なあ、おれもそろそろ、外の世界を見てみたいんだ。頼むよ、お嬢ちゃん」

 はあ、とまた曖昧な返事をして、私は手の中のおじいちゃんを見下ろした。真鍮色に光るそれは私の熱でじんわり暖められており動かない。

 紙飛行機をそのまま職場へ持って行けるわけもなし、一度ほどいてまた折り直しても、同じ人格(?)が宿ってくれるのかしら、と私は考えていた。

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