2日目 屋上

 週末にデパートの屋上で行われるフリーマーケットには、両親が健在だった頃何度か遊びに行ったことがあった。

 ずいぶん忘れていたけれど、突然その存在を思い出したのは、駅のポスターだった。

 ――みなさんお待ちかね、青空フリーマーケット再開――

 少し小さな文字で、感染症対策についての注意事項などが書かれている。

 そのポスターがあんまりきれいな青空だったので、つい見とれて立ち止まり、頭の中に刷り込まれ、そうして昨日の日曜日、起きてカーテンを開けた空が同じ青をしていることに気付いてしまった。


『それは掘り出し物だよ』

 ふらふらとあてもなくさまよっていると、太陽の光を受けてきらきら輝くものを並べているお店が目にとまった。お店と言っても、レジャーシートに小さな台を置いて上に無造作に並べているだけ。どの出店者も似たようなものだった。

『掘り出し物って?』

『その時計は五十年もの、そっちのボタンと帯留めは戦前から残った貴重なもの、それからお嬢さんが持ってるその鍵は、なんと百年前の蔵の鍵だ』

『ほんとに?』

 ほんとだよ、とマスク越しでもはっきり分かるくらい、おじいさんは笑った。くしゃりと顔のパーツが真ん中に集まって、つられて私も少し笑う。

『良かったら紐をつけてあげよう。栞にちょうど良い。この紐も、結構古いリボンだよ』

 怪しいことを言っておじいさんは別のがらくたの山から色あせたリボンを引っ張り出す。元々は鮮やかな青だったらしいそのリボンの色味も気に入って、私はついつい、頂きますと答えたのだった。

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