第14話
「済まなかった!」
合流したアリアによる事情説明が終わったあと、正座をしていたエルフたちはその状態で頭を下げ、必死に謝罪をしてくる。
てっきり、アリアは騙されている! などと疑う者がいるかと思ったが、全員が同じ態勢――土下座スタイルで謝ってきたため少し面食らってしまう俺たち。
そんなことはお構いなしと、最も身体の大きいエルフが代表して声を張り上げながら顔を上げた。
「我らが同胞を助けてくれて、本当に感謝する!」
「気にするな」
山の巌のように鍛え上げられたその男は、森の民であるエルフよりはデカいドワーフと言われた方がしっくりくるくらいだ。
ただエルフというのは元々凄まじく美丈夫なので、体格が大きいことも相まってワイルドなイケメンという風貌だ。
たしかこの男だけは唯一、俺の一発目のビンタをガードしていた。
普通ならガードの上からでも吹き飛ばすだけの力を込めたつもりだったが、予想以上の実力者だったということだろう。
その分こちらも少し熱が入ってしまい、他よりも強い一撃を入れてしまったが、まあそれは仕方があるまい。
……思い切り顔を真っ赤に腫れあげさせてしまったのは、少しだけ申し訳なく思う。
「ところで貴様の名は?」
「我が名はスルト! アークレイ大森林に棲むエルフの大戦士だ!」
「アリア、大戦士とはなんだ?」
「あ、大戦士っていうのは一番強い戦士でみんなのリーダーだよ」
聞き慣れない言葉に問いかけようとするが、この男に聞くと声も大きいし面倒そうなので、隣のアリアに尋ねると、スムーズに答えてくれる。
なるほど……人間でいうところの騎士団長みたいな役職か。
「我らが同胞のアリアを助けてくれた恩人であるリオン殿を襲い掛かったこと、改めて謝罪させて頂きたい!」
「……ああ、それはもう構わない。そもそもエルフが人間を嫌っていることは知っているからな」
「おお……なんと寛大なお言葉、感謝する!」
だから声がでかい。あとなんか圧が凄い。
まあそれはともかくとして、一先ずエルフとの関係がこじれることがなかったのはありがたい話だ。
「とりあえずこれで、アリアをエルフの里に戻すという問題は解決したな」
「そうですね」
「あ……」
その表情、もしかして忘れていたのだろうか?
人がせっかく気を使って……と思ったが、そもそも俺としてはこのままエルフの里を見てみたいという願望がある。
いったいどうすれば里に入れてくれるのだろうか?
よくよく考えれば、ゲームでも人間嫌いなエルフは主人公たちと関わることがない。
つまり、なにかしらの必要イベントというものが存在しないのだ。
「どうするべきか……」
いくらなんでもあれだけ敵対意識を持っていた人間を招き入れるとは思えない。
力の差を見せつけたため、この場にいるエルフは大丈夫だろう。
だが里というのだから、それなりに人数がいる。そこに人間がやってきたら、それこそ囲って攻撃してきかねない。
そんな風に考えていると、アリアがぎゅっと俺の手を握ってきた。
「どうした?」
「ありがとうご主人様」
涙目で見上げてくる少女は、やはりエルフという種族だけあって芸術品のように美しい。
なんとなく目が離せずじっと見つめていると、アリアは顔を赤らめてそっと視線を逸らした。
どうやら恥ずかしかったようだ。
「アリア、あの時は便宜上その呼び方を許したが、そもそも私はお前の主人ではない」
いくら訂正しても彼女はこの呼び方を変えなかった。
それは暗に、自分は貴方の下僕で抵抗はしませんから守ってくださいという、彼女なりの処世術。
だがそれももう必要ないはずだ。
「お前はもう仲間のところに戻れるのだから、普通に呼べばいい」
「えっと……もうこの呼び方に慣れちゃったから、駄目?」
「駄目だ」
「そっか……それじゃあ」
――リオン君、本当にありがとう!
先ほどの涙を見せる姿も美しかったが、それ以上に微笑むエルフの少女はとても、とても美しかった。
どうやってエルフの里に入るか。
そんなことをずっと考えていたというのに、ことはあっさりと解決する。
「我らが家族を救ってくれた恩人であるリオン殿を歓迎しないわけにはいかないからな!」
そう大きな声で宣言するスルトの一声で、俺たちはあっさりとエルフの里へ迎え入れられることになったのだ。
エルフたちは報告のために先に戻っていたので、この場にいるのは俺たちと戦士長であるスルトのみ。
森を歩いていると、不意に結界らしきものにぶつかる。とはいえ、すぐに招かれた者として判断されたのか、抵抗なく入ることが出来たが。
そうして里と思わしき場所の入り口には屈強そうな戦士たちがいた。
普通に考えれば、里を守る門番だろう。
とはいえ事情を先に聞いていたのか、彼らも友好的な視線を向けてくれる。
「ここが我ら!」
「アークレイの森に棲む、エルフの里だよリオン君!」
緑の木々に囲まれて、家なども自然と一体化している。
俺たちが辿り着いたのは、まさにファンタジーにいる森の民、というような雰囲気の村だった。
「わぁ……」
「ほう……」
幻想的な雰囲気で思わず立ち止まって魅入ってしまう。
俺とともにやってきたフィーナたちもその光景に圧倒されているようで、感嘆の声を零していた。
「ここがエルフの里か……なるほど、美しい良い場所だ」
「えへへー! でしょでしょ!」
「空気も澄んでいて、魔力も多く漂っている」
「精霊たちが気に入る場所でしか僕たちは住めないからね」
自身の故郷を誉められて嬉しいのか、アリアは終始ご機嫌な様子だ。
そんなアリアを横目に、スルトが俺たちの前に出る。
「さて、それではこのまま長老のところに案内を――」
「アリア!」
「お前……戻ってこれたんだな⁉」
そんなスルトの声は、離れたところから駆け寄ってくる二人の男女によって遮られる。
「え? あ、ママ! パパ!」
彼らがどんな存在か、それは瞳を輝かせたアリアの言葉ですぐにわかった。
アリアは両親の下に駆け出していき、そのまま抱き着いた。
「良かった! お前が人間に攫われたと聞いて、ずっと生きた心地がしなかったのだぞ!」
「ええ、ええ! でもこうして無事に帰ってきてくれてよかったわ!」
「うん! うん! 僕も怖かった! もう帰って来れないんじゃないかって怖かったよぉ!」
離れ離れになったエルフの親子の再会。
そんな感動的な再会を邪魔するのも無粋だろうと思い、俺は彼女たちから背を向けて、エルフの里を見渡す。
――まあ、アリアを連れてきて良かったな。
この美しい光景を見れただけで、そう思うには十分すぎるものだった。
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