第41話 敵対組織
「あーあ。まさかボクが操られるなんてな……修行が足りないな」
「……勇者ってさ、ずっと敵だと思っていたけど……見えない敵に操作されてたんだね」
メグの言葉にマナたちはハッとし、エレノアの方を神妙な面持ちで見だした。
「えっと……どういうこと? ボク意識が無くて覚えてないんだけど」
あの時完全に意識を失っていたエレノア。
自分たちの世界の事実を知らない彼女にミルヴァンが視線を逸らしながら説明する。
敵は他にいるようだが……いきなり自分たちは敵じゃなかったなんて受け入れがたい事実なのであろう。
殺し合いをしていたような関係なのに、突然手を取り合えなんて不可能だ。
戦争終結の瞬間に一緒に楽しく遊ぶようなものだ。
頭では分かっていても無理に決まっているのだ。
「そっか……うーん……だったらどうしたらいいんだろう? あっちに帰って皆に説明して理解してくれるかな?」
「エレノアの言葉にそれだけの説得力があるなら、できるんじゃないか?」
「どういうこと?」
「これまでの常識を、人間と魔族の対立の絵を描いていた敵が他にいるって説明してさ、それをどれだけの人が納得できるかって話さ。だから戦いを止めようって言って、皆はなるほどってなるか?」
「どうだろう……ならないような気がするな」
「魔族にしてもそうじゃ。余たちの頭がおかしくなったと思われるかも知れん。それに敵はまだ沢山いそうじゃしな。真実を公言したとしても、消されてしまう可能性だってある」
「敵は強い……ボクたちじゃ太刀打ちできないほどに、か」
「そういうことじゃ」
実力的にはマナたちじゃどうあがいても勝てない相手だろう。
テクロスが言っていたことが真実であるとするなら、奴は自分が所属していた組織の中でも大した人物じゃない。
そのテクロスでさえエレノアを操れるほどの実力者。
奴だけでもどうしようもない相手だというのに、それ以上が存在するのなら絶望的であろう。
強い小学生がプロ格闘家に挑むようなものだ。
話にならないだろう。
「そうすると……蒼馬に頼るしかないかな」
「おいおい。俺はよそのことに口出しも手出しもする気は無いぞ。お前たちを助けてやるつもりはあるけど、世界一つを助けるとなると話は別だ。そkまで介入するつもりはない」
「だったらさ、コレットはどう?」
「はぁ?」
メグの問いかけにコレットは顔を歪める。
「だってコレットはテクロス相手でも圧倒してたでしょ? 君が力を貸してくれるなら、どうにかなりそうなんだけどな……って」
「残念。私は蒼馬様の命令しか聞くつもりもないし、お前ら助けるつもりもねえから」
「だったらどうする! 俺たちじゃどうしようもないのだろう!?」
「自分たちでやればいいんじゃない?」
「だから、それができたら苦労はせんと……」
「だから、これから強くなりゃいいって話してんだよ」
「……強く、か」
「確かにコレットの言う通りだ。お前たちにはまだ可能性が残っている。強くなる可能性がな。もし強くなりたいっていうのなら、強くしてくれるやつを紹介してやるぞ」
エレノアが俺の腕を取る。
その大きな胸の柔らかみといい香りにドキッする俺。
「だったら蒼馬が教えてよ! ボク、もっともっと強くなりたいし」
「まぁ、時間がある時ならいいけどな」
「時間は作ってよ。折角の婚約者のお願いなんだからさ」
「誰が婚約者じゃ! そ、蒼馬は誰のものでも無い! あ、余の物になるつもりはないかの?」
「ない。蒼馬はモモのもの」
モモが俺の手を握り、体を引っ付けてくる。
「まぁ良い……では帰るとするかの」
「いや、待て」
「ん? どうしたんだい、蒼馬?」
俺はテクロスの遺体を見下ろし、一つため息をつく。
「死体……どうするかな」
「そうだな! ここに埋めていくか!?」
「いや、そんなことしてバレたらバレたでまた面倒なことになるしな……」
「モモの能力で消す?」
「そうするか」
モモの力があれば死体を消滅させるぐらいわけない。
今はそれが最善だろう。
「あー、だったらさ、ボクの仲間に相談しておくよ」
「エレノアの仲間?」
「うん。ここで処理するよりは情報も得られるんじゃないかな? ほら、テクロスのことを知ってる人もいるかも知れないし」
「知ってても言うわけないじゃろ。どうも秘密機関の人間らしいからな」
「あ、そっか……まぁでも変に死体処理するよりかはいいんじゃないかな?」
「そうかもな……じゃあ死体の件はエレノアに任せるよ」
「うん。任された」
「じゃあ……一旦帰るとするか」
「そだね。操られててよく動いたのかお腹減ったよ~」
なんて能天気なことを言うエレノア。
ちょっとした死活問題だったのだけれど、そんなエレノアに対して苦笑いするマナと四天王たち。
なんだか皆を取り巻く空気感が軽くなったような気がする。
本当に敵対するのは自分たちじゃない。
そう気づいたのだからだろうか。
どちらにしても仲良くしてくれるのは嬉しいものだ。
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