第31話 三人でお出かけ

 学校でもエレノアとマナは仲が悪い。


「ふはははは! 勇者よ、なんじゃその点数は! 23点? 低すぎて笑いが止まらんわ!」


「な、何を……魔王だって41点だろ! 人のこと言えないじゃないか!」


「う、うるさい! おぬしよりかは点数が高いのじゃから、余の勝ちであろう!」


 教室でテストの点数を見せ合い、怒鳴り合う二人。

 クラスメイトたちはもう見慣れた光景らしく、微笑ましく二人を眺めている。


「芹沢氏。あの二人は仲が悪いですな」


「おお、浜崎氏。でも喧嘩するほど仲がいいとも言うだろ?」


「だけどあれは……仲が悪すぎるような気もせんでもないのだけれども……」


「……確かに」


 声の限り叫び合う二人。

 元々勇者と魔王なんていう、対極にいる存在で戦い合う存在で憎み合う存在。

 このままいけば、将来殺し合うことになるんだよな……


 同じアパートに住んでいる住人同士でそれは面白くないな。

 なんとか二人の関係を改善できないものだろうか……

 そう考えた俺は、放課後二人を遊びに誘うことにした。


「なあ、この後どこかに行くか? 好きなところに連れてってやるぞ」


「ええ、本当に!? じゃあ、運動できるところがいいな」


「何を言っておる! 運動などごめんじゃ! 行くなら金のかからんところがいいの。あるいは激安スーパーを巡りでも可じゃ」


「運動、頑張ってるみたいじゃん。だったら練習がてら行ってもいいんじゃない?」


「勇者とは絶対嫌じゃ! 蒼馬と二人ならいいがな」


 行く場所でもめる二人。

 しかし、これだけ真逆な二人だったら、どこに連れて行ってやったら同時に喜んでくれるのだろう。

 どこなら二人は仲良くしてくれるだろうか。

 

 そう。

 俺は二人に仲良くしてほしいがために、一緒に出かけることにしたのだ。

 二人の仲を改善させるという作戦である。


「二人が一緒に楽しめるところに行こうぜ」


「余は蒼馬と二人ならどこに行ってもよいぞ」


「エレノアが抜けてるだろ、エレノアが」


「そうだよね。じゃあボクと二人で出かけよう、蒼馬」


「今度はマナが抜けてる。だから、お前たち二人が一緒に楽しめるところに行こうって言ってるんだよ」


「それは……どこもないね。魔王がいるだけでどこに行っても楽しくないよ」


「全くじゃ。勇者と一緒に行動するなどできるわけがなかろう」


「じゃあ君はさっさと帰りなよ。貧乏なんだからバイトでもしてたらいいんだ」


「なっ……そもそも、何故おぬしは貧乏じゃないのじゃ!? 同じ境遇のはずなのに、何故そんな余裕があるのじゃ?」


 マナの言葉に、エレノアが胸を張って言う。


「ボクにだって仲間がいるからね。四天王なんて無能じゃなく、有能な協力者がね」


「誰が無能じゃ……あやつらの誹謗は許さんぞ!」


 仲間のことを言われ、マナは本気で激怒しているようだった。

 クラスの空気はピリピリし、いつもと違うその怒りに震える生徒たちもいた。


「今のは言い過ぎだ、エレノア。同じアパートの住人だから、そこまで言ってやるなよ」


「……ボクは悪いとは思っていない。だってボクたちは敵同士なんだから」


「そうじゃ。こやつとは敵同士。だから仲間を侮辱されたとなれば……決闘じゃ!」


 ザワつくクラス。

 浜崎氏は俺の隣で青い顔をして声をかけて来る。


「せ、芹沢氏……さすがに止めた方がよろしいのでは?」


「そうだよな」


 俺は呆れて二人の間に入り、二人に向かって言う。


「喧嘩をやめないなら、金輪際口を聞かないぞ。そして喧嘩をやめるつもりなら、そっちの味方になってやる」


「「止める!」」


 その声を同時だった。

 二人は声を合わせて止めると宣言する。

 まるでアーティスティックスイミングのように、完璧同じタイミングだった。

 お前ら、本当は仲いいだろ。


「よし。じゃあ二人同時だったから二人の味方だ!」


 俺が笑ってそう言うと、二人は「ずるい!」と言いながら俺を取り囲む。


「どういう関係、あの三人って」


「芹沢を取り合ってるってことか……」


 周囲が俺たちのことを噂している。

 まぁ取り合いをしているのは間違いではないので否定はしないが……

 

 浜崎氏がプルプルと肩を震わせていた。


「せ、芹沢氏……羨ましすぎだー!!」


 浜崎氏は二人のやりとりを見て、また教室を飛び出して行ってしまった。

 羨ましいって……二人の誘いを断らないといけないし、色々大変なんだぞ。

 そんなに羨ましいことじゃないぞ。


「と言うことで、三人で遊びに行こう。楽しい一日にしようぜ」


「「…………」」


 しかし二人は睨み合うばかり。

 これは仲良くさせるのは骨が折れるな。

 だが難しいからと言って途中で投げ出すのも性に合わない。

 やるならとことんやってやる。


「まずはどこに行くか決めるとするか」


「運動できるところ」


「運動しないところ」


 やはりバチバチの二人。

 俺は何度も二人をなだめつつ、行く場所を考えるのであった。

 

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