第17話 新庄兄
「てめえが芹沢かぁ!?」
「え、ああ。そうだけど」
新庄の兄。
金色に染めた髪をオールバックにし、筋トレをしているのか結構いい体つきをしている。
タンクトップを着ており、左腕と右腕にはびっしり入れ墨が彫られており、見るからに悪そうな奴で周囲にいる生徒だけではなく、教師までも怯えて口を出せない様子。
それに来ていたのは新庄兄だけではない。
何十人もの仲間を引き連れ、学校まで出向いてきたようだ。
そんな新庄兄は睨みを聞かせながら俺に近づいて来る。
「てめえ、弟を寄ってたかってイジメたってマジか?」
「マジなもんか。寄ってたかってイジメられてたのは俺の方だ」
「う……」
新庄は兄に嘘をついていたらしく、俺の言葉を聞いて顔を逸らした。
兄はそんな弟の様子を察し、ニヤッと笑いながら俺を見る。
「……だったら、イジメられてたお前が悪いんだ」
「なるほど。弟は良くても他人はダメなんて、お前みたいな奴が小便ちびりの弟の躾なんてできるわけなさそうさよな」
「……死にてえのか?」
「死にたくないね。これまで散々死ぬような目に遭ってきたんだからな」
「ならこれからはそんな心配しなくてもいいぞ」
「そうなのか?」
「ああ。今日きっちりお前を殺してやるからよ」
俺の胸倉を掴む新庄兄。
俺はエレノアに向かって笑顔で言う。
「悪い。今日は一緒に帰れそうにない」
「こいつやっつけるの?」
「まぁ……そうなるだろうな」
「だったらボクも手伝おうか?」
「いや、いいよ。手加減間違えて人殺しなんてされても面倒だしな」
「えー。そんなへましないよ、ボク?」
「てめえら! さっきからなに調子乗ったこと言ってんだ! このアマ……てめえも殺してやろうか?」
「殺すなんて言葉は本当に殺す時以外使わない方がいいよ。じゃないと、無駄に敵を作ることになるからね」
「敵は目の前にいるてめえらだけだ! 後は全員、俺の奴隷だからな!」
俺はため息をつき、興奮気味のエレノアをなだめる。
「エレノア。今日はもういいから帰れ。また明日にでも一緒に帰ろう。こいつのことは俺が適当にやっとくから。な」
「……分かった。でも明日、約束だよ」
「分かってるよ。じゃあな」
「おい! なに勝手に帰ろうとしてんだ――」
「俺が全部話つけてやるから、あの子のことは放っておけ」
「いてててて! 何してんだコラ!」
依然として俺の胸倉を掴んでいる新庄兄の腕を捻り上げてやる。
エレノアは表門から堂々と出て行き、この場を立ち去って行った。
「ほら、行くんだろ。早くしようぜ。モモが待ってるから時間をかけたくないんだよ」
「時間なんか気にする必要ねえよ!」
「俺が死ぬからか?」
「そうだ」
「なら、問題ないな。早く行こうぜ」
自分の出来る限りの怖い顔をしているのだろう。
新庄兄は悪党そのものの顔で俺を睨み付けていた。
だがこいつは外見だけ。
中身も無ければ凄みも無い。
俺はいくつもの死線をくぐってきたんだぜ?
今更そんな睨みなんて通用しないよ。
新庄兄が首をくいっと動かす。
ついて来いという合図であろう。
俺は彼について行き、バイクの後ろに乗せられた。
「これから地獄に一直線だ。覚悟しろ」
「バイクって初めてだからなんだか楽しみだな。制限速度内で飛ばしてくれ」
「…………」
俺がワクワクしてそう言うと、今にも俺を殺しそうな目つきで睨む新庄兄。
そしてバイクは俺を乗せてどこかへ向かって走り出す。
◇◇◇◇◇◇◇
「「「すいませんでした!!」」」
廃墟に連れて来られた俺は、およそ百人の不良に取り囲まれた。
だが軽く全員捻り倒してやると、その場にいた男たちは俺に向かって土下座をし始める。
新庄弟は真っ青な顔で周囲と同じ様に土下座し、新庄兄は廃墟のゴミの中で気絶していた。
「次来るようならもっと痛めつけるからな。いいな?」
「「「は、はい!!」」」
全員が俺の顔を見ることなく、土下座したまま返事をしていた。
「おい新庄」
「ひゃ、ひゃい?」
あまりもの恐怖に呂律が回っていない様子。
俺は笑いそうになりながら話を続ける。
「俺、お前に百万ほど金を貸してたよな?」
「え? あ、はい……」
「利子はいらないけど、貸した分はキチンと返してもらうぞ」
「は、はい……」
「じゃあな」
これで話は片付いた。
対して手間はかかってないが、妙に疲れたな。
俺は踵を返し、廃墟から出ようとした。
が、その時――
「芹沢ぁあああ! 隙を見せたお前が悪いんだぜ!」
新庄はバタフライナイフを手に取り、俺目掛けて一直線に駆け出した。
だが俺は嘆息して軽く裏拳を当ててやる。
「ぶっ!!」
兄と同じ方向に吹き飛び、兄と同じ様にゴミの中で気絶する新庄。
「無駄だってなんでわからないんだよ、このバカ」
呆然と震える男たちを残し、俺は帰路についた。
◇◇◇◇◇◇◇
「ちょっとだけ遅くなったな。モモ、すねてなかったらいいんだけどな」
時間にして一時間ほど無駄に浪費してしまった。
時刻は夕方にさしかかっており、世界が赤く染まり始めている。
先にコンビニで買い物を済ませ、大通りから一本路地を折れてアパートを目指す。
「あれ?」
すると、アパート前には茶髪の女性が立っており、俺を見るなり感激の面持ちでこちらに向かって走り出す。
「え、なんでここに……」
「蒼馬様! 会いたかったです!」
茶髪の女性は俺の胸に飛び込み、力強くこちらの体を抱きしめてきた。
「コレット……」
こいつのことは知っている。
コレット――マールバランドにいた頃の俺の仲間だ。
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