第15話 魔王幹部たちと食堂

 エレノアとマナが転校して来た日の昼休み。

 俺はコンビニ弁当を机の上に取り出し、食事を始める。


「……昼ご飯はどうした?」


「…………」


 エレノアはすでにできた友人たちに囲まれて昼食を取っているようだが……

 マナが俯いたまま隣で座っている。

 エレノアと違い、コミュニケーション能力が低いのか友人はまだ出来ていないようだ。

 あまりにも二人に落差があるためにマナが哀れに思え、席をくっつけて一緒に弁当を食べることにした。


「一緒に食べるぞ」


「い、一緒に食べる物が無いのじゃ……」


「無い? 弁当を持って来てないのか?」


「そんなのが必要と知らなんだからな」


「ああ……なるほど。じゃあ食堂に行くか」


「…………」


 マナは俯いたまま泣きそうになっていた。

 ああ、そういえば電車賃を支払うだけの金も無いんだったな。


 その時、グーッとマナのお腹の音が鳴る。

 赤面するマナ。

 あまりにも彼女が気の毒に思え、俺は今日の昼食をご馳走してあげることにした。


「今日は俺がおごってやる。明日から弁当持ってこいよ」


「よ、良いのか……?」


「ああ。同じアパートの住人だしな」


 パーッと明るい顔をするマナ。

 そのあまりの可愛らしさに、俺は一瞬ドキッとする。


 俺はコンビニ弁当を袋に戻し、マナと共に食堂へと向かった。


 食堂は白いテーブル席がいくつも並べられており、壁際にはジュースの自動販売機が備えらえれている。

 ガヤガヤと昼食を取る生徒で賑わっており、その数にマナは圧倒されているようだった。


「……あれはなんだろうな」


 その中で一際大騒ぎをしている集団があり、俺は何をやっているのかが気になり近づいてみることにした。


 するとその騒ぎの中心……騒がれている正体がメグだということがすぐに分かる。


「メグ」


「あ、蒼馬も食堂に来てたんだね」


 メグのテーブルの前にはありとあらゆる食事が置かれており、それをモリーとムトーと共に食べているようだった。


「なんかさ、私にご馳走してくれる人が多くて、皆で食べてたんだぁ」


「へー……じゃあマナにも食べさせてやってくれよ」


「あ、そういやマナ様はお金も弁当も無かったよね。ささ、どうぞどうぞ。私の隣で食べて食べて」


「…………」


 マナを隣の席に座るように促すメグであったが……マナは固まったまま動かないでいた。


「おい、また美女が来たぞ」


「今日は転校生が多いけど、美人ばかりだな」


 メグとモリー、それにエレノアとマナ。

 皆容姿が優れているので、皆そのことに興奮しているようだ。

 気持ちはよく分かる。

 だけどちょっと騒ぎすぎじゃないか?


 今もメグを中心に男たちが目をハートにさせて、彼女に食事をおごっているらしいけれど……

 皆が皆おごっていたら、あまりメグの印象に残らないんじゃないのか?


「これも食べてよ、ルクレティアさん」


「いやー、今日は弁当持って来てなかったから助かるよー。ありがとうね」


「うむ! これを食べて力を付けることにしよう!」


 メグに提供された食事は、次々にムトーの腹の中に納めらえていく。

 だがそれを気にする者は誰一人としていない。

 メグに手渡すだけで満足しているようで、その後のことまでは見ていないようだ。


「で、お前は貰わらないのか?」


「こ、こんな知らない者ばかりと食事はできん」


「ああ……」


 メグの凄まじい社交性は多くの人の心を掴み、その明るさは人を引き寄せる。

 だがマナは人見知りのために、出来上がったコミュニティーに入っていけないようだ。

 モリーも人見知りをするタイプに見えるが……そんなことよりも食事が大事らしく、端っこの方でメグが貰った食事を食べている。


 マナも入っていけばいいと思うのに、彼女は顔を引きつらせるだけでその場を動かない。


「よし。じゃあ俺と食うか。約束通り今日はおごってやるから」


「す、すまない」


「別にいいよ」


 マナはメニューの中からカレーを選び、二人で適当に空いている席に着く。

 彼女の可愛らしさに視線が集まっているが……そんなことよりもかレーの方に興味津々のようで、マナは周りの様子を気にすることなく目を輝かせていた。


「おお……こんな料理は初めて見たわ」


「そうか。カレーは美味いんだぞ」


「ほう……それは益々興味深い」


 銀色のスプーンでカレーをすくい、桃色の唇に運ぶマナ。

 パクッと一口口にすると……彼女はプルプル体を震わせる。


「う、美味い。本当に美味いぞ、蒼馬!」


「そんなに喜んでくれたら嬉しいよ。奢った甲斐があるというものだ」


「美味い美味い! これなら朝昼晩と一日中でも食べれるわ!」


「そんなに気に入ったのかよ。だったら家でも作ってもらえよ」


「家で作る……? そんなことが可能なのか?」


「まぁそんなに難しくはないんじゃないかな? 俺も作ったことあるし」


「何? では今度良ければその……蒼馬のカレーを振る舞ってはくれんか?」


「ああ、いいぜ。カレーぐらいならいつでも作ってやるよ」


「……や、約束じゃぞ!」


「ああ」


 それはそれは嬉しそうに、可愛い笑顔を見せるマナ。

 そしてカレーを堪能し、また嬉しそうに体を震わせていた。

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