第14話 エレノアとマナは転校生

「芹沢氏。今日はこれを持ってきたでござるよ」


「おお、浜崎氏。久しぶりだな!」


 マナたちを職員室に案内した後、俺は自分の教室にやって来た。

  

 俺に話しかけてきた男、浜崎茂はまさきしげる

 小太りで明るめのオタク男子。

 この世界における俺の数少ない友人である。


「……あれ?」


「どうした?」


「あ、いや……芹沢氏、なんだか背が高くなったような……それに明るくなったような気もするのだが」


「ま、色々あってな」


「そうか……うむ。 男子三日会わざれば刮目してみよ。とも言うしな。数日見ないだけで芹沢氏も変わったとうことだな!」


 それでいいのかよ。

 まぁこちらとしては、そう捉えてもらったほうがありがたいけど。

 説明しなくていいし。


「あれって……芹沢?」


「え? パシリの芹沢だよね……なんかカッコよくなってない?」


「前はどんより暗かったのに、なんだか明るくなった感じ」


「芹沢氏……俺は君が羨ましいぞい!」


 浜崎氏が俺の胸倉を掴みながら叫び出す。


「君はもっとこう……闇のような暗さを抱えていたはずなのに、今は太陽のように明るくなって! これは三日合わなかったぐらいじゃ説明はつかんぞ!」


「ははは。ちょっとしたイベントがあってだな」


「ほう、イベントとな? ではそのイベントを詳しく説明せよ! そして俺も、貴君のようにモテたいのだ!」


「結局そこかよ」


 必死の形相の浜崎氏を見て、俺は苦笑いを浮かべる。

 結局説明求められてるな……


 俺はどうしようかなと考えていたが……そのタイミングでガラリと教室の扉が開く。


「貴様ら。席につけ」


「え? 誰? あの美形?」


「新しい担任? 外人?」


 入って来たのは……ミルヴァン。

 その背後には、なんとマナとエレノアもいる。


 まさかあの二人も同じくクラスかよ……


 生徒たちは素直に席に着き、俺も自室に座る。


「おい、あれ転校生だよな……それに外人って」


「その上、新しい教師も含めて、三人とも外国人だぜ。メチャクチャ美人だよな」


「そういや噂だけど、今日転校生いきなり五人も来たらしいぜ」


 全部知って奴だ。

 そう言えば異世界慣れし過ぎてなんとも思ってなかったけど……この世界の感覚から見れば、あいつらは外人に見えるんだな。

 

「全員席についたな。俺はミルヴァン・クローズ。よろしくたのむ。そして」


 ミルヴァンはエレノアを指差し、生徒たちに説明をする。


「これはゴミだ。クズだ。全員で無視しろ。そして退学に追い込め。いいな?」


「教師がイジメさせんじゃねえよ! ちゃんと紹介しろ」


 俺の言葉にミルヴァンは舌打ちをし、エレノアに言う。


「自分で言え」


 エレノアは額に青筋を立てていたが……深呼吸をして生徒たちに向かって自己紹介をする。


「ボク、エレノア・セイ・リーゼフォン。よろしくね!」


「じゃあ外に席を用意しておくから帰れ」


「ちゃんと教師してほしんだけど?」


「うるさい。勇者なんかの教師をしてたまるか」


 バチバチ火花を散らすミルヴァンとエレノア。

 俺は呆れながら二人のことを見ていたが……それより、その背後でモジモジしているマナの方が気になる。


 あいつ……メチャクチャ緊張してるな。

 ガチガチが顔を引きつかせてる。


 エレノアに開いてる席につくように促したミルヴァンは、次は膝まづいてマナの紹介を始める。


「こちらの魅惑的な美少女はマナ・マクガリス様。この世で最も美しく、尊い存在だ。皆も膝まづくがいい。


「…………」


 その場にいる全員が固まっていた。

 何かバカなことを言っている教師を軽蔑する生徒たち。

 美形が新しい教師になったと喜んでいた女子たちも、一気に冷めたようだ。


「ふ、普通にするのじゃ、ミルヴァン……」


「はっ……ではマナ様は……おい、そこのお前」


「え? 俺?」


「ああ。そこの席をどき、開いている席に着け」


 ミルヴァンに指定された男子は納得いかない顔をしているが、ミルヴァンの睨む姿に渋々と従っていた。


「き、今日からよろしく頼む」


「あ、ああ……」


 男子がどかされた席は俺の隣。

 どうやら俺の隣に座らせるのが目的のようだ。

 

 こんな露骨なことしてんじゃねえ……

 言っとくけど、仲良くなったとしてもお前たちの世界には行かないからな。


 しかし、マナは隣に座ってもまだ緊張しているようだ。

 まぁ視線はマナとエレノアに集まっているからだろうけど。


 態度はデカいからどこでも誰にでも堂々としていると思っていたけど……意外とそうでもないんだな。


 逆にエレノアはすでに周囲と打ち解けている様子。

 隣の席や、前の席のやつから話しかけられても明るく受け答えしている。

 

 社交性という意味では、勇者に軍配が上がるな。

 というか、勝負にもならないみたいだ。


「ねえ、マナさんってどこから来たの?」


「ほえっ!? よ、よよよ、余は……あはっ」


 俺と逆の席の女子から話しかけられ、また固まってしまうマナ。

 こいつはとことんまで人見知りなんだな。

 俺の時はどうってことなかったみたいなのに。

 なんで?


 しかし二人が同じクラスになったことによって、学生に復帰したというのにまたトラブルの予感……

 何事も無く平穏な生活が望ましいのだけれど。


 俺はガチガチのマナと明るいエレノアを見てため息をつくのであった。

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