第2話 最強の帰還

「おい、芹沢の奴生きてるぞ!」


「マジかよ……って、服装変わってんじゃん。どういうことだ?」


 空には明るい太陽が昇っている。

 向こうの世界とは違い、太陽の数は一つだけ。


 場所はどうやら学校のようだが……俺は校舎裏にいるようだ。

 校舎の上、屋上を見上げると、数人の男子が俺を見下ろしているのが見える。


「お前、いつ着替えたんだよ?」


 俺の顔を見て少し驚いている様子の男、新庄保しんじょうたもつ

 坊主頭に、バリカンでラインを入れたガラの悪い男……

 奴は俺をイジメていた男だ。


 当時のことを思い出し、俺の中で怒りの炎がボッと燃え上がる。

 

 この状況……俺が飛び降りさせられた現場じゃないか。

 俺は新庄の命令で屋上から飛び降りをするも――そのタイミングで異世界に召喚されたのだ。


 あれがなかったら確実に死んでるな。

 だって三階以上の高さからのダイブだもの。

 まさに奇跡としか言いようがないな。


 服装は異世界で着ていた冒険者風の物……

 だが時間は一切過ぎていないようだ。


 足元には割れた眼鏡が落ちている。

 これ、俺のやつだよな。

 元々視力が悪く眼鏡をしていたが……

 そうか、異世界に行った時に眼鏡をしていなかったが、ここに落としていたのか。


「おい、上がって来い! パシリ!」


 ゲラゲラと笑い声が聞こえてくる。

 パシリ……当時の俺のあだ名だな。


 俺は立ち上がり、ゆっくりと校舎へに入って行く。


 しかし向こうの世界では二年経ったはずなのに、こちらでは時間が流れていなかったのか?

 となると、俺はこの世界では16歳になるが、肉体と精神年齢は18歳になるわけだ。

 なんだか不思議な感覚だ……まるでタイムスリップでもした気分。


 懐かしい光景。

 雑談している生徒に、温かみの感じられない廊下。

 帰ってきたという感動とノスタルジックな気持ちを味わいながら階段を一段ずつ上がっていく。


 そして屋上に出て、新庄たちの姿を視認する。

 醜悪な笑みをこぼす男たち……その数10人。

 全員、俺をイジメていた不良の連中だ。


 俺は体に流れる魔力を確認する。

 うん。この世界に戻ってきても、力はそのままのようだ。

 だとすると、今の俺からすれば新庄たちは……雑魚もいいところだろう。

 喧嘩になったとて、軽くあしらうことができそうだ。


「おい、パシリ! こっち来て這いつくばってワンワン吠えろ!」


「弱い犬ほどよく吠えると言うけど……相変わらずうるさいやつだな、新庄」


「……ああっ!?」


 俺が口答えしたことに怒り心頭の新庄。

 青筋を立て、奴は俺に接近してくる。


「てめえ、調子乗ってたら殺すぞ」


「俺に向かって殺す・・か……」


「……マジで殺してやろうか?」


 新庄は慣れた手つきでバタフライナイフをポケットから取り出す。

 そして俺の喉元に突きつけ、ニヤリと笑う。


「おい、やりすぎじゃねえか……」


「別にパシリが死んでもいいんじゃね?」


 新庄の背後にいる連中は戸惑っていたり、依然として笑っていたりとそれぞれ反応は違う。

 違う態度はとっているが、誰一人止めようとしないのは一緒であった。

 仲間の暴走を止めるのも仲間の役目じゃないか?


 俺は新庄の顔を見て、笑みを浮かべ続ける。


「? ……お前、背、高くなったか?」


「お前が縮んだんじゃないのか?」


 二年前の俺の身長は160センチないぐらいであったが……今は170センチを超えている。

 以前は新庄を見上げるばかりであったが、今は視線が同じぐらいだ。

 同じぐらいの高さの視線……その視線を新庄は歪ませ俺を睨む。


「……大きくなったのは背だけじゃないみたいだな……自殺未遂で態度までデカくなって、どうなってんだ? 頭でもおかしくなったか?」


「あれは自殺未遂じゃなくて殺人未遂だろ」


 血走った目つきで俺を睨む新庄。

 その手は、恐怖に震えているようだった。

 本当に殺してしまわないか怯えているのだろう。

 素人がナイフなんて触らないほうがいいぞ。


「て、てめえが屋上から飛び降りたんだろうが!」


「屋上から飛び降りるのを強要されたんだ。あれってれっきとした犯罪なんだぜ? 勉強になったろ?」


「なに調子乗ってんだてめえ! 本気で殺すぞ、ああっ!?」


 新庄は手を震わせながら、俺の左手を見下ろしニヤリと笑う。


「お前……それ、カッコいいつもりか? 服装もそうだが、ゲームの主人公にでもなって強くなった気でいるんだろ?」


 俺の左手にはめられている、黒い革の手袋と金色のブレスレット。

 現在俺の左手は義手であり、それを隠すための手袋なのだが……

 新庄はそれをカッコつけていると何癖をつけているようだ。

 そんないい物じゃないんだけどな。


「だけどそのブレスレットは悪くねえな……それ、俺がもらうわ」


 そう言って新庄は俺の金色のブレスレットに手を伸ばそうしてきた。


「触るな」


 俺はただ手を弾こうとしただけなのだが……

 当たり所が悪かったというか、力加減を誤ったというか……

 少し奴の顔に左手が触れて・・・しまっただけのはずが――


 相手を吹き飛ばしてしまった。


「「「新庄ぉおおおおお!?」」」


 新庄の仲間たちがその異様な光景に叫ぶ。


 新庄は吹き飛んでいき、十メートル以上向こうのフェンスに激突し、フェンスに絡まってしまっていた。


 唖然とする男たち。

 俺はやり過ぎたと、彼らとは違う焦りを感じていた。

 

 そしてそれと同時に、新庄が死んでいないようで良かったとホッとしていた。

 さすがに帰還そうそう殺人は御免だからな。

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