11月はとばりの国

たけぞう

Day1 鍵

 鍵を九十度回すことで、レレィアは自らを閉め出した。静謐な廊下が、音も、分子の振動も、死に絶えたように彼女を待っていた。ひとりぼっちの宇宙で、自分の身一つしか閉め出すもののない部屋から、今日も彼女は彼女を追放する。そのちいさな失楽園は、繰り返されるほどに意義を失い、レレィアにとって次第に儀式めいたものになっていたけれど、さりとて彼女は一度も鍵をかけ忘れたことはなかった。それは、願掛けであり、呪いだった。彼女の真っ白い指先によるささいな神の裁定が、自分以外の誰かの立ち入りを禁止することを、来る年も、また来る年も望んでいた。二秒間の彼女の宗教は、たったひとりの信者のため息で終わりを告げ、レレィアはこつこつと廊下を歩き始めた。

 丸い舷窓が宇宙を切り取っている。

「昼間だわ」レレィアはつぶやく。「ここは、永遠の昼下がり」

 彼女の瞳は、彼方の太陽を見つめていた。それは漆黒の孤独の中で、いつか確かにあったのだ。晩秋の夜更けがそこにあった。宇宙は十月に似ている、と書いた作家がいた。しかし、今や宇宙の季節は十一月なのだ。時のない永遠の十一月が、更なる孤独を伴奏に寂寞を奏でていた。その旋律なき旋律で胸を満たして、今、レレィアは本当にひとりぼっちだった。

 栄養を詰めたキューブをかじり、船の進路を確認し、航海日誌とは名ばかりの千冊めの表紙に、彼女は二千二百二十二と年を記した。

 やることがなくなった。

 レレィアは、もういちど十一月を眺め、廊下を歩き、孤独に胸を刺されては足を止め、また十一月を旅した。いつのまにか、彼女のエデンに戻ってきていた。

 鍵は九十度。銀色の扉は相も変わらず忠実に、神聖に、彼女から楽園を失わせていた。指先の儀式を、二秒間の宗教を、繰り返された呪いを待ちわびて、九十度を保ったままあくびをしていた。それを〇度に戻しながら、彼女は少し泣いた。涙の意味は分からなかった。

 扉を開く。

 そこには、男が死んでいた。

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