春大会

【1回戦-1】

県立大学 春大会メンバー


1 猪野塚(二) 

2 会田(二)   

3 高岩(一) 

4 佐谷(三)   

5 福原(三) 

6 中野田(三)  

7 菊野(二)  

8 鍵山(二)   

9 バルボーザ(一)

10 大谷(一)   

11 星川(一) 

12 安藤(三)   

13 北陽(四)   

14 閘(一)   



1回戦

対孝生学園戦オーダー

1 会田(二)

2 佐谷(三)

3 中野田(三)

4 鍵山(二)

5 大谷(一)

6 安藤(三)

7 北陽(四)





「これ、やばいのでは……」

 一通り対局を見て回った菊野は、廊下で呟いた。県立大学は今、一回戦で孝生学園と対戦している。

 春大会。昨年全国5位という成績を残した県立大学は、誰もが挙げる優勝候補だった。五人の一年生が入部し、ついにオーダー表を埋める14人に達していた。

 会計となった菊野は、一年生のまとめ役としての重責も担っていた。ある程度詳しいバルボーザと高岩に戦型ノートを任せ、自らは対戦表を作成していた。

「先輩、どうしたんすか」

 無邪気に声をかけてきたのは、一年生のひのくちだった。ルールを知らずに入部してきて、ようやく駒を並べられるようになった。

「その、あんまり、いい感じじゃない」

「いい感じ?」

「会田君と中野田さんが苦しいっぽい。北陽先輩と大谷君も」

「そうなんすか」

 閘はまだ、形勢判断ができるまでに至っていない。それができる福原や猪野塚は、心配そうに戦況を見守っていた。

 県立大は昨年のメンバーから、野村と覚田という強力なメンバーを欠いていた。しかし、大谷という有望な一年生が入り、留学生のバルボーザもなかなかの実力だった。他の三人はレギュラーには遠かったが、14人になった部員は作戦の幅も広がり、地区大会ではかなり有利だと自分たちでも思っていた。

 エースの佐谷、そして学生女流二位となった鍵山は調子もよく、万全の将棋を指していた。だが、それに続くべき中野田・会田は強化リーグの時からしゃっきりしていなかった。一年生の大谷がこの二人に勝ちまくっていたほどである。

 部長の安藤、そして四年生の北陽は、勝ちが計算できるほどの力はない。二人は下二枚として出場し、どちらかは勝てれば、という作戦である。つまり、上5人で3勝はノルマなのである。

 二年生以上の中で、最も大会出場の可能性がないのが菊野である。そのため安藤部長は、彼を「運営リーダー」に指名していた。控えメンバーをまとめ、戦況を見極め、対局の終わった安藤にアドバイスをする役目だ。

 そんなことは荷が重い、と感じた菊野だったが、安藤は言った。「君も全国5位の一員なんだから大丈夫」

 出場しない選手もチームの一人として貢献している。それが部としての考え方だった。そして、出ない選手も、名前が載っていれば出るかもしれないと相手に思わせる。それだけで価値がある。

「菊野君がいたから勝てた試合がある。だから、もっと自信を持って」と安藤は言った。

「菊ちゃん、戦型ノート見せて」

「あ、うん」

 声をかけてきたのは猪野塚だった。兼部していたセパタクロー部が部員不足で休止状態となり、今年度は毎日部室に来ていた。今大会は、メンバー表の一番上に名前がある。いわゆる「当て馬」の位置である。

「石田流かあ」

 猪野塚が確認していたのは、次に当たる徳治大学の大将戦だった。作戦上、自分が出る可能性が高いと踏んでいたのである。猪野塚は最近安藤や福原と並ぶ成績を収めており、いつどこで出てもおかしくない状況だった。


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