百合を殺す服
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
百合を殺すニットカーディガン
「えっへっへー。百合を殺す裸ニットカーディガンだぞぉ」
ユイが、裸にカーディガンを羽織っている。
「なにそれ、ユイ?」
「ほら、『童貞を殺すセーター』ってあるじゃん? 百合だったらなんだろーって考えたんだよね」
「どういう理屈なのさ?」
「百合っつったら、ニットカーディガンっしょ」
ユイの理論が、まるでわからない。
まったく、ユイの発想は斜め上を行っているな。
オッパイがあるのに細いという反則的なボディをしているため、谷間だけがやたらと強調されている。
「マキつれないー。もっときゃーっとか言っていいんだよ」
「言わないし、百合じゃない」
「えーっ。百合百合しようぜー」
「しないー」
あたしたちは、ソファを中心に部屋を駆け回った。
「おとなしく捕まれー」
「やだって。かゆい」
急に、ユイが立ち止まる。
バッと、裸カーディガンを脱ぎ捨てた。
全身を爪でかき出す。
「かゆい」
「言ってんじゃん!」
「でもやめない!」
「やめろっての」
また、ソファを中心に鬼ごっこ。
アホらしくなって、スピードを緩めた。
とうとう、回り込まれたあたしはユカに捕まってしまう。
服がはだけ、ニットからユイの乳房が顕になる。
本当に丸裸だ。
こんなとき、人は冷静になるもんなんだなあと。
「あんたも裸ニットカーディガンになるのだー」
「やだって。かゆいもん」
そういいつつ、ユイがあたしのボタンを外し始める。
「待て待て。本気!?」
「くせになるから」
「ならないって!」
また、ユイが脱ぎ出す。
「かゆいかゆい」
「あんた毛玉繊維ものダメなんじゃん!」
なんで自分の体質に合わないことを。
「だって、カーディガンが似合うって、オトナの女じゃん?」
「なんでさ! あんた小学生じゃん!」
あたしが怒鳴ると同時に、リビングのドアが開く。
「なにやってんのアンタ!」
ユイの母親だ。
「またアンタ、お母さんのカーディガン勝手に着て!」
「ひえええ……」
コイツは黙って、母親のカーディガンを着ていたのである。
「マキちゃん。もう遅いから、ウチでご飯食べていきな」
「ありがとうございます」
「ご両親の分も、ちゃんと包んであげるからね」
マキの母親は、忙しいウチの両親のために料理までしてくれる。
ウチはお返しに、外食に連れて行ってごちそうをするのだ。
「いつも、すいません。ママが料理できないばっかりに」
「いいのよ。私とあの娘の仲だもん」
ユイのママは、「それより」と、ユイを叱る。
「これは私が、大事な人からもらったものだから。イタズラしちゃダメ」
「はーい。ちぇー」
お風呂入ってきな、と、あたしはユイと一緒に風呂場へ。
「どしたん、マキ?」
「いえ、なんでもない」
あたしのママを想像しているおばさんの顔、なんだかうれしそうなんだよなぁ……。
百合を殺す服 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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