第67話 類友
ヴォサノバのBGMが静かに流れる店内で無事に工作を終えると既に時間は20時前。いい頃合いかなと三音里ちゃん母に電話をかけて今日の面接の説明する。
人を雇うのはもう少し先でと言っていたので二つ返事とはいかなかったけど一番ネックだった継続雇用の問題がクリアーになっているならと当面は日雇い扱いでお試し採用の許可を頂いた。失業保険との兼ね合いとか問題もあるようだけど社会保険なんかを考えるのはまだ先の事だ。俺なんか申請手続きにも行ってないけどどうしようかな。やっぱり人を雇うのって色々大変だ。
翌日の午前中に採用決定を電話で伝えるととても喜んでい貰えた。幾つになっても合格の連絡は嬉しいものだろう。電話の向こうで何度もお辞儀をしているのが何となく伝わってくるとこちらも嬉しくなる。
取り敢えず事前の業務説明という事で金曜日に朝から入ってもらう約束をして電話を切った。この日は勉強だから無給なのだが「全く問題ありません」と元気な返事を頂いた。「賄いは出すよ」の一言が効いたかも。
今度の週末は三音里ちゃんと翼ちゃんも手伝ってくれることだしきっと何とかなるだろうと楽観的に考える事にする。
先週は素人一人で(死にそうだったけど)乗り越えたんだ。単純戦力が四倍なんだから何とでもなるだろう。みんな素人だけど。
「類は友を呼ぶ」とは昔からよく言われる事だ。その人や場所の醸し出す雰囲気が居心地が良くて集まってくる人たちは不思議と考え方や嗜好が似通っていたりする。
一緒に働いてくれるなら木島さんも是非そうであって欲しいと思う。垣間見たあの思い切りの良さそうなアクセルワークは既に俺の好みであったりするのだけれど。
そんな午前中を過ごしていると昼前に今日はツーリングらしいお客さんが一組ご来店だ。オッサンの四人組。使用感のある革ジャケットから長くバイクに乗っている雰囲気を感じる。
昨今ではバイク乗りの平均年齢が上がっているとは良く聞くけどここでマスター擬きを始めてからはそれを肌で感じる。まあ、表に停まっているバイクを見ればさもありなんと納得するしかないかな。
並べられたバイクは何れもピカピカのリッタークラスのSS。爆音のアメリカンはいないけど真っ赤なイタ車なんかもあってどれもが車両価格は多分二百を超える。まぁ三音里ちゃんのクォーターが大台超えちゃうんだから仕方がないといえば仕方がない。でも若者が手にするには敷居が高すぎる。
その昔はバイクは車が買えない奴のチープな乗り物なんてことも言われた時代もあったけど時代は変わったんだね。今じゃ車より高いんだから完全に趣味の世界になったと思う。不便を楽しむ余裕がなければ中々手を出せない代物が増えた気がする。
でもそんな流れの中でもメーカーさんも頑張って手軽で面白そうな小型バイクもチョロチョロと出してくれてるのも救いかな。入口の間口の広さは重要だと思います。実際俺だって小僧の頃に乗ってたから今も乗っている。多分、このお客さんたちだってそうだろう。その時の若者が興味を持たなくなったらその文化は遠くない未来に消えるんです。
そんな中で一人バイクを弄っていたらホントただの変わり者扱いされちゃう。今でも十分思われている気がするのはスルーでお願いします。
注文はホットドッグ四つとアイスコーヒー。漏れ聞こえる話を聞くと一番年配ぽい白髪が混じったオッサンがSNSで見つけたらしい。そっち方面に興味のない俺からすれば凄いオッサンだ。自分でも投稿するのか携帯で写真を撮りまくっている。
今日はこの先の有料道路を走るのでその前にここで軽く腹を満たそうと寄ってくれたらしい。その後は更に先の温泉で一泊。平日にツーリングして温泉でノンビリ一泊。あやかりたいものだ。
アイスコーヒーと一緒にピカピカのカスターラックを配膳する。昨日は出番がなかったからこれがデビューになる。
ちゃんと使えるかなとちょっと気にしているとスライド式の蓋が中々好評のようだ。これなら週末に向けて残りも準備して良さそうだと一安心。紙ナプキンから変更したホットドッグの包み紙もキチンと仕事をしている。これならテイクアウトもいけるかな。
実はオシボリもディスポタイプに変更してみようかとも思ってたんだけどオッサンたちが気持ちよさそうに顔を拭いてるの見てこれは保留だなと思い直す。あれ気持ちいいんだよね。俺もタオルタイプだとついついやっちゃう。だってホッとするんだもん。
店内の様子を探りながらグラスを磨いていると昼を過ぎて他のお客さんもチョロチョロとやってくる。今日は随分と客の入りがいい。天気のお陰だな。
さぁ商売、商売。
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新しいオモチャにリソース全部持っていかれてるんで投稿が遅れております。
申し訳ございません。
うむ、趣味のマルチタスクは難しいものだ
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