出会い⑧

「昨日はごめん、そっけなかったよね」

「いえ、ただ緊急な感じに見えたから大丈夫だったのかなって」

「心配ありがとう。実は良い知らせだったんだ」

「良い知らせ?」

「そう。大学の時から仲いい友達の弟が長年意識不明で寝たきりだったんだけど、昨日意識が戻ったんだ」

「えっ」

テレビで聞くような話につい驚いた。

「びっくりするだろ?正直、もう目を覚ますことはないと思ってたんだけど、本当に奇跡ってあるんだなって」

「寝たきりって、事故とかですか?」

「あー、いや、違うんだ」

柳瀬さんは声を落とした。続きを言いかけたところで宮園さんが顔を出した。

「センパイずっとここって喋ってるんですか?」

「ごめんごめん」

「私もう食べ終わっちゃいましたよ。暇なんで早く戻ってきてください」

そう言って宮園さんは踵を返した。

「そうだ、沙織が今度、橋詰さん呼んで家で焼肉しようって言ってるんだけどどうかな?」

「えっ行きま」

「行きますー!」

宮園さん・・

「私ずっと柳瀬さんの奥さん見てみたかったんですー、行ってもいいですか?」

「いいよ。なんか賑やかになりそうだね」

「やったー!!」

柳瀬さんは去年マイホームを建てた。ちょうど子供も生まれて今は幸せいっぱいの時だ。そんな幸せ夫婦に宮園さんは憧れている。

「2人が都合つく時でいいから」

「今週末とかどうですか!?」

「橋詰さんは大丈夫?」

「はい、空いてます」

「めっちゃ楽しみー!ありがとうございます」

休憩室に戻り、遅れてコンビニ弁当を食べ始めた。宮園さんは横でずっと週末が楽しみだと話している。

「焼肉かー、最高。手土産何がいいですかね」

「アイスとかいいんじゃない」

「でも暑いし、ドライアイス入れてても溶けちゃいますよ」

「そっか。私明日デパート行くからお菓子とか選んでくるよ」

「いいんですか?そういえば有休取ってましたもんね」

「うん。もっといい使い方したかったけどね」

残りの有給休暇を消化するタイミングをうっかり逃してしまい、ギリギリで入れられたのが明日の日付だった。特に遊ぶ予定もなく、せっかくだから唐風軒に退院祝いを持って行こうと考えている。

「センパイ!見てくださいあれ!」

宮園さんがテレビ画面を指差した。

「熱愛発覚だってー。あの俳優今まで絶対彼女の噂出なかったのに、すごい」

ずっとテンションの変わらない宮園さんの横で弁当を食べながら、私は柳瀬さんが言いかけた話の続きがずっと気になっている。



朝からデパートで買い物をして、一旦荷物を置くため家に帰ろうと駅から歩いた。

「夕夏さん!」

声の方を向くとスーパーの前で遥人君が手を振っていた。

「あれ?平日なのにどうしたんすか」

「有給消化で休みになったの。おばさん帰ってきた?」

「それがまだなんすよー。迎えに行く予定だったんですけど店の仕込み失敗しちゃって、急いで買い物してきたところです」

「そうなんだ、この後行くの?」

「いや、かーちゃんに電話したら歩けるんだから一人で帰るって言われて。店が大事だから来なくていいって・・」

「私、電車だけど迎えに行こうかな」

「えっそんなん悪いっすよ」

「ううん、後でお店行くつもりだったし、それに退院って荷物あるから大変でしょ」

「でも」

「大丈夫、どっちみち心配だから行ってくる」

遥人君はやっぱり心配だったらしく、すみませんと言って任せてくれた。おばさんは私から電話したら遠慮して断るだろうから遥人君から連絡してほしいと伝えて別れた。


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