出会い④
駅まで見送ると言ったけど龍平は断った。
「お前も明日仕事だろ、送んなくていいって」
「分かった。ありがとね、楽しかった」
「やっぱ幼馴染ってのはいいよな」
「うん。こっちに来てからこんなふうにはしゃげるのってあんまりないから、会えてよかった。それ荷物になっちゃうけどよろしく」
「あいよ。花絵、喜ぶんじゃね?」
お盆に一旦帰ることを伝え手を振った。隆平はあと3日間長野に滞在するらしい。実家に戻ったら今度は一人暮らしの準備があるから大変だ。インテリアをどんな風にするか迷ってる、なんて言ったから今日は一緒に家具を見に行った。何かを決めるとき人に頼るところは昔から変わっていなくて懐かしく感じた。
家に着き、朝干したシーツを取り込んで龍平が寝ていた来客用の敷布団を畳んだ。浴槽に水をためるため蛇口をひねり浴室を出ると、洗濯機の上に例のTシャツとズボンが置かれていた。これを使うことがあるなんて思わなかった。あの時、荷物に入れ忘れたこの服をーーーーー
目の前に立っている彼は「君、この間の」といった。その時の絶望感を覚えている。クリスマスプレゼントを渡すと不思議そうな顔をしていた。私はどうしても彼に持っていてほしかった。似合うと思って選んだネイビーブルーのマフラー。妹からのプレゼントだと嘘をついた。持っていてくれればいつか本人が気づいてくれる時が来るかもしれない、そう思ったから。
新幹線が発車する合図が鳴って彼は車両に足を踏み入れた。
さよなら、タケルーーーーー
同じ夢を何度見ただろう。あの日からもう2年が経つというのに、心に何かがつっかえて取れないままでいる。恭也という人の瞳が一瞬悲しそうに見えたのは気のせいだったのか。
遥人君はタケルが店で話していたことについて教えてくれた。ずっと自分は記憶をなくしているんだと思っていた、けどあのノートでと恭也と話すうちに疑問を抱いた。なぜ僕と恭也の記憶は融合しないのか。そして恭也は多重人格者なのだという結論に至った。もう1人の人格として僕が生まれた。だから恭也として過ごしている間この人格は眠っているんだ。
それを聞いて、タケルがくれた手紙のことを思い出した。
ーー恭也の人生を邪魔したくない。
この言葉の意味が胸に深く突き刺さった。タケルがそう決めたのなら私達が会うことはこの先ない。忘れるしかないんだ、そう自分に言い聞かせた。
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