第17話 ようやくブリーフィングかよ。……っと、こりゃ

『ドミニア、ヴァーチアの全パイロットは、ただちにドミニアのブリーフィングルームへ集合せよ。繰り返す。ドミニア、ヴァーチアの全パイロットは、ただちにドミニアのブリーフィングルームへ集合せよ……』


 館内放送が響き渡る。

 ったく、シルフィアと楽しく話してたってのによ。


 立ち上がりながら、ブリーフィングルームまで向かう。


「ま、俺は個人でアドレーアと契約してっから、行かねーワケにもいかねぇが」

「あれ? 配属じゃなかったの?」


 おっと。俺、言わなかったっけ?

 いや、シルフィアは俺が配属されたものだと思い込んでたんだろうし、俺も俺でハッキリ言ってなかったな。


「あー、俺は正式に配属されたワケじゃねぇんだよな。個人的にアドレーアと契約して、それで同行してるってことだ。戦力として、な」


 その契約の際にナニがあったかは言わないでおく。言えるかあんなもん、俺もそのくれぇの分別ふんべつはあるわ!


「契約? 珍しいね。ふつう、王立空獣ルフトティーア駆逐艦隊には一度階級を貰ってから所属することになるのに」


 シルフィアは「ほら、これ」と言いながら、胸に付いた階級章を見せてくる。まごうことなき、中尉の階級章だ。

 ヴェルセア王国は服装――特に肩の部分と、胸の徽章きしょうの二つで階級を示す。


「ああ、だから階級はぇんだよ。遊撃隊隊長、って立場にゃなったがな」

「遊撃隊かぁ……。ゼル君らしいんじゃないかな?」

「あぁん?」

「ゼル君、バディを組んだときより単機で動き回るの得意だったし」

「それもそうだな」


 シルフィアはともかく、どいつもこいつも足手まといとしか思えなかったぜ。ま、向こうもそう思ってる可能性もなきにしもあらずだが……最終的にゃ、俺が単機でことごとく敵機や空獣ルフトティーアを斬り伏せてきたな。


 おっと、そろそろか。


「さて、それじゃこっからはブリーフィングだろうな。黙っとくぜ」

「うん」


 流石に、茶々を入れる状況じゃねぇしな。

 俺たちは意外と早いタイミングで、ブリーフィングルームに入室を終えた。


     ***


「皆様、揃いましたわね。それでは、私から作戦の通達を行います」


 ブリーフィングを務めるのは、アドレーアだ。

 ドミニアとヴァーチアを合わせたスタッフの中で、最高の権限を持つ。単純にアドライアの姉であることも、また権限の一つだ。


「作戦目標は、“極空の白塔エクスグレン・ルフトゥルムの異常を把握すること”。そのための偵察として、次のように陣形を組みます」


 アドレーアが告げる陣形。

 先遣隊と中堅をアークィスでほぼ固め、後方と艦の直掩ちょくえん――ボディガードにリヒティアが10機程度。最後方に、指揮のための艦隊がいるって寸法だ。

 出せるリヒティアは見立て通り、20機が最大。直掩以外の機体は、先遣隊か中堅に同行して偵察をするのだろう。


「はいなはいな、承知。んで、俺は?」


 問題は、遊撃隊隊長の俺がどうすんのか、ってことだ。ま、隊長つっても、俺だけだが。

 あと、“遊撃隊”の名前の時点で、だいたい察しもついてるが。


「作戦段階での行動指定はしません。偵察、戦闘、護衛……全て、貴方の判断にお任せします」

「んじゃ、俺は好きに暴れさせてもらうとすっか」


 そうそう。アドレーアから直接言わせるのが重要なんだよな。

 これがねぇと、後でモメっから。


 ……っと。何か変な感じがするな。


「んじゃ、俺は一足先に出てるぜー。作戦目標聞いたら十分だしな。あ、シルフィア借りてくわ」

「かしこまりました」


 軽いノリを出しつつも、俺はシルフィアを連れてブリーフィングルームを出た。


「ちょ、ちょっと!?」


 驚くアドライアの声が聞こえるが、今は気にしてらんねぇぜ。


     ***


「……さて、急ぐか」

「えっ、ゼル君?」


 突然の出来事に、理解が追いついてねぇシルフィア。ま、いきなり連れ出されたら当然だわな。


 だが、俺はただ気まぐれでシルフィアを連れ出したワケじゃねぇ。

 明確に、嫌な予感がする。


「急がねぇとマズそうだからな。シルフィア、お前も桜玖良さくらに急いで乗れ。調整終わってんだろ?」

「た、たぶん……」


 まだ事態を呑みこめてなさそうだな。

 なら、ちゃんと言うか。


「俺の勘だが……空獣ルフトティーアが迫ってきてる気がするぜ。想定よりずっとはえぇだろうな」

「よ、よくわかんないけど、ゼル君が言うなら!」


 何だかんだで、シルフィアは俺の話を聞いてくれるからな。それに、俺の勘が必中なのも、ずっといるから分かってるはずだ。


「私、こっちヴァーチアだから! 先に出てて!」

「あいよ!」


 連結状態を保っている通路から、ヴァーチアに向かうシルフィア。

 それを見届けた俺は、格納庫まで急いだ。


     ***


「頼むぜ、ヴェルリート・グレーセア!」


 俺は整備済みのヴェルリート・グレーセアに乗り込むと、すぐさま起動させる。

 図体の割に通常のアドシアよりも立ち上がりが早いヴェルリート・グレーセアは、すぐさま滑走路に足を運ぶ。


 俺は発艦はっかん要員に、怒鳴るように話す。


「緊急事態だ、出るぞ! ヴァーチアにも伝えろ!」

『りょ、了解!』


 まだブリーフィング中で、発艦許可なんざ出てねぇからな。

 だが、仮にも男爵の俺が緊急事態と言えば、事情は伝わるだろう。


「ぐっ……!」


 体にかかる強烈なGジーに耐えつつ、俺は発艦を済ませる。

 数秒遅れて、シルフィアの桜玖良さくらも艦から射出された。


「よし来たな、シルフィア」

『ゼル君、急にどうしたの?』

「レーダーを最大出力にしてみろよ。桜玖良さくら、狙撃仕様だから通常より遠目が利くだろ?」


 言いつつ、俺も同様に、レーダーの索敵範囲を最大にする。……案の定だ。


『えっ、ゼル君、これって……!?』

「ああ。駆逐したと思ってたが、まだ高度1,000m以下に残存してたな。しかも相当な数。こんなとこにまだいやがるたぁ思わなかったぜ」


 戦術か、偶然か。

 その判断が付かねぇ以上、俺たちが全滅させるつもりでぶつかんなきゃな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る