第7話 戦艦ドミニアって、めちゃくちゃでけぇのな

 一足先にベッドを後にした俺は、シャワーを浴びて服を着替える。見た感じ、この艦の制服っぽいな。


「意外と、あっさりしてたな」


 ドキドキとかそういう感じはあったが、終わってみれば、妙に頭が冴えてきちまう。そんなもんだった。


 あー……童貞もキスも、アドレーアにあげたんだな。俺。


 なのになんでか、終わった後はむしろ少しだけアドレーアと距離を取りたいと思った。嫌いってワケじゃねぇのに。

 まったく、本能ってめんどくせぇな。ま、その本能があっから、人間って種族が一番繁栄したんだろうな。少なくとも、前世の地球じゃ。


 あ、でも。

 してるときのアドレーアの顔がとても可愛かったのは、それはそれで良かったな。あんなの見たらそそるに決まってんだろ。あと普通にメチャクチャ気持ちよかったし……。何だかんだで、アドレーアにはこれからも世話になりてぇなぁ。色々と。


「それにしても……これから何すんのかねぇ」


 筆おろしはもう6回もやって済ませたワケだし、もともと増援として来たけどここら一帯の空獣ルフトティーア殲滅せんめつ済みだし。

 いや……何するよ、ホント?


「ヒマだな……何つったっけ? この戦艦。ちょっと歩きてぇなぁ」

「“ドミニア”でございます。ゼルシオス様」

「あー、それだそれ……ん?」


 唐突に女の声がしたので振り向くと、そこには黒髪紫目のメイドがいた。おいおい、俺にすらここまで気づかせてねぇって、どんな手練てだれだよ。

 って……この立ち居振る舞いは、まさか。ま、後でいいや。


「さっきアドレーアんとこにいたメイドか。ライラっつったな」

「はい。ライラ・シュヴェリアと申します。以後、お見知りおきを」


 スカートの端をつまんで片足を引き、軽くうなずくようにして挨拶してくるライラ。

 前世でもアニメでメイドの出るシーンは見たが、随分と堂にった所作ってやつだと俺は確信した。


 さて、名乗られたら俺も名乗らねぇとな。

 アドレーアにはタメ口をかましたが、礼儀ってのは大事だ。


「もう知ってるだろうが、俺はゼルシオス・アルヴァリア。あー、今はもうただのゼルシオスだけどな」

「存じております。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「よろしく。ところで、ドミニアを案内しに来てくれたのか?」


 まるで待ってたかのようなタイミングで、俺の元に現れたからな。


「ええ。アドレーア様から、ゼルシオス様のお世話を仰せつかっておりますので」

「そいつぁ助かるな。だが……」


 俺は、ライラが隠しつつもわずかににじみ出てる不満の気配を見逃さなかった。


「それは俺に言いたいことを言ってからにしとけ」

「! ……いえ、何も」

ぇワケねぇだろ。不満をぶちまけたい気配が見えんだよ」


 ライラはしばし逡巡するが、しかし首を振って答える。


「ありません。何も」

「ケッ、後で精神病んでも知らねぇぞ」

「お気遣い、ありがとうございます。ですが、問題ありません」

「そうかよ」


 かなり意固地だ。これ以上手ェ焼く気になれねぇので、俺は話を進める。


「さて、いい加減案内してほしいんだが? 俺が立ち入れる場所は全部、な」

「かしこまりました」


 まったく、別の意味で氷だな、この女ライラ……。


     ***


「こちらが、格納庫です」


 俺は格納庫に、最後に案内された。


「広いな、この艦ドミニア

「全長1,268mとされていますので」


 道理でクソひれぇと思ったよ……。ヴェルリート・グレーセアから見た時点ででけぇと思ってたけどさ。


「ところで……見たことねぇアドシアがわんさかいるな。見た目はちょっとアークィスに似てっけど……何だ、これ?」


 俺が気になった、格納庫にズラリと並ぶアドシア。一般的なアークィスは水色ベースに白のカラーリングだが……こいつは白と金、ついでに赤のカラーリングだ。

 こんな感じで色は違うし、ついでに見た目も違う。アークィスはカメラアイがバイザーなのに対し、このド派手なのはツインアイ。しかもアークィスよりちょっとゴツい体型だ。


 なぁんて分析してると、ライラが答えを出してくる。


「こちらに並ぶアドシア。その名を、“リヒティア”と呼びます」

「リヒティア……聞いたことねぇなぁ。もしかして……最新鋭機か?」

「はい。我がヴェルセア王国においても、我々王立空獣ルフトティーア駆逐艦隊、あるいは一部のトップエースのみに優先配備される強力な機体です」


 そこからライラは、いくつか説明をしてくれる。

 装甲がゴツく、出力もアークィスの1.5倍、ただ代償にいくらか重いってのが要約だ。ぶっちゃけ重量は出力とかでカバーできっから、代償は踏み倒したも同然だけどな。考えたもんだぜ。


「そして私には、専用のアドシアがあります。リヒティアをベースに専用の強化を施した機体……それがこの、紅那内くないです」


 いくらか歩いた先には、真紅のアドシアが佇んでいた。

 紅那内くないって呼ばれた機体は、リヒティアより細身に見える。両肩の推進器が特徴的なカスタムだ。見た目通り考えりゃ、機動力特化タイプだろう。装甲も削って重量ダウン、純粋に出力アップの恩恵を受けられるな。被弾したらぜってークソ脆いけど。


 だが、優秀そうな機体なのは間違いねぇ。

 シュタルヴィント改よりは間違いなくつえぇはずだ。


「ところで、俺の乗ってたヴェルリート・グレーセアはどこだ? あんなクソでけぇアドシア、そうそうしまっとく場所なんてねぇだろ」

「ご安心ください。あちらにございます」


 ライラが手で示す先には、直立の姿勢で眠ってるヴェルリート・グレーセアがいた。

 その周囲には、何人ものメカニックが慌ただしく動き回ってやがる。


「よくあんなでけぇスペースあったな……オイ」

「ドミニアや同型艦には、必ず搭載されています。どの王族が英雄の末裔を迎えられても、問題なく受け入れられるように」

「俺みたいなのがうじゃうじゃいんのか?」

「そのようなことはないと思われます。英雄の末裔を証明するヴェルリート・グレーセアは、世界広しといえどもたった1機限りの存在ですので」

「あー……」


 察した。

 今のライラの説明と、さっきのアドレーアの「仮に私が貴方を逃がしても、兄弟姉妹がこぞって契約しようとしてくるでしょうね」って言葉で察した。


 え、今の俺って、そんな特別な存在なの?


「その通りです。ヴェルリート・グレーセアを起動し、操縦できる。それだけで、ゼルシオス様は既に特別であることの証明なのです」

「マジかよ……」


 あんなすげぇシロモノだったの、あれ?

 近くにアドシアあったから、ちょっくら乗っただけだってのに。


 と、放送の流れる前兆のノイズ音が聞こえた。


『ゼルシオス・アルヴァリア、並びにライラ・シュヴェリア。至急、艦長室へ来るように。繰り返す――』

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