第12話 変態伝道師タクミ(ヒョウタンクワガタ編)
「ん?ああ、これか」
タクミはレイが呟いたラベルのケースを取り出して三人の前に置いた。
「これはヒョウタンクワガタっていう台湾に住んでいるクワガタだな」
タクミがケースを開けるとそこにはクワガタらしき姿は見えず、代わりに表面に穴がたくさん開いているマットが目に映った。
「クワガタいないね……」
ハルはケースの中をあちこち探すがやはり姿が見えない。
「野生では朽ち木の中で暮らしているからな~でも、あることをすれば外に出てきてくれるんだぜ。ま、確定じゃねえけどな」
「どうするの?」
「ちょっと待ってな~」
そう言いながらタクミはメタルラックにあった産卵用のケースの中を漁り、プラスチックカップ──飼育者の間ではプリンカップと呼ばれている──の中に何かを入れ、三人の前に戻ってきた。
「今日は久しぶりにエサをやる日だったから丁度良かったわ」
タクミはプリンカップに入れたものを三人に見せた。カップの中に入っていたのは……クワガタの幼虫だった。
「え……これってクワガタの幼虫だよね? 」
「もしかしてこれで出てくるの?クワガタがクワガタの幼虫を食べるって……なんか変……」
ハルとレイはカップの幼虫を見ながら驚愕しいた。当たり前だ。普通クワガタはクヌギやコナラなどの樹液をエサとしているのだ。普通の人ならクワガタを食べるクワガタなんて存在しないと思っているだろう。
「よし、じゃああげるぞ」
そう言うとタクミは幼虫を巣穴の近くに置いた。幼虫はうねうねとマットの上でしばらく動いた後、大顎と脚を使いマットに潜り込もうとする。すると
「あ!穴から何か出てきた!!」
先に気付いたのはハルだった。巣穴から出てきたのは黒色をした体長3センチ程のクワガタであった。体格はずんぐりしていて太く短い大顎はまるでペンチのようである。そして上翅にはたくさんの筋が付いている。
「これがヒョウタンクワガタだな。いつもは落としても出て来ない時が多いけど今日は運がいいみたいだな」
ヒョウタンクワガタは台湾と中国に生息している小型のクワガタである。野生では主に朽ち木の中に生息し、クワガタでは珍しく集団で生活する亜社会性の習性をもっている。そしてこのクワガタが他のクワガタと違うところ。それは食性である。
穴から出てきたヒョウタンクワガタは近くで動き続ける幼虫を見つけるとノソノソと近づき、そしてペンチのような大顎で体に噛みついた。
「あ、噛みついたよ!」
ハルは興味津々な面持ちでヒョウタンクワガタの食事を観察している。クワガタは大顎を開けたり閉めたりして幼虫を咀嚼し漏れ出る体液を舐めとっている。そう、このクワガタは
「ホントにクワガタがクワガタの幼虫を食べてる……」
レイは目を丸くしながらヒョウタンクワガタをじっと見ている。
しばらくするとヒョウタンクワガタは幼虫をくわえたままバックで巣穴の中に引きずり込んでいった。
「ねえ、タクミ。このクワガタどうやって増やしてるの?」
興味が湧いたのかナツキはヒョウタンクワガタの飼育方法をタクミに質問した。
「基本的には普通のクワガタと同じ産卵用の微粒子一次発酵マットと産卵木で産んでくれる。ただコイツ、春にならないと卵産まないんだよな~ 。あと幼虫も成虫もマットの劣化に弱い。所々クセのあるクワガタって感じだな」
「あ、もしかして幼虫をエサにしてたのってマットの劣化を防ぐためか」
「ご名答」
「能勢さんどういうこと?」
「死んだ虫だったりドックフードみたいなエサは時間がたつとダニが湧いてマット内の環境が悪くなってしまうの。生きた幼虫ならクワガタが好きな時に幼虫を捕まえて食べるからダニが湧きにくくなってマット内の環境も保てる」
「なるほど~ 能勢さんスゴいね!」
ハルは目を輝かせながらずいっと体をナツキの方へ乗り出した。ハルの体が至近距離まで近づきナツキは少し困惑した。
「そ、そんなことないよ…」
「ねえ、タクミ君。他にどんな虫飼ってるの? お気に入りのやつ見てみたい!」
レイはスチールラックに並ぶ大量の飼育ケースを見渡しながらタクミに尋ねた。
「そうだな…… ヤッパリ俺と言ったらコイツかな。なんたって俺が最初に惚れたクワカブだからな!」
そう言いながらタクミはスチールラックから小サイズのケースを取り出した。
「これが俺のお気に入りで全男子の憧れ。世界最大のカブトムシ、ヘラクレスオオカブトだ!」
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