第8話 勇者として
「待ちかねたぞ」
校舎についたら、なんかグラー学園長が俺を待ち伏せしていた。
腕を組んで仁王立ちしていて如何にもって感じだが、見た目は完全にロリなのでどうしても愛らしい子供ようにしか見えなかった。
原作に置いてそれでも容赦なく肉棒の餌食にしていた勇者って割と鬼畜なのでは、と俺は思った。
「えっと、何か用があるんですか?」
俺がそう尋ねると、学園長は「うむ!」と力強く頷いてみせた。
「お前にちょっとした用事があってだな。ただ、大っぴらに話すような内容ではないので、ちと場所を移すぞ――という訳じゃ、ルナ。悪いがこいつを貰っていくぞ」
「はい~、分かりました」
そう言いつつも少し不服そうな様子のルナ。
まあ、突然やって来て話し相手を連れていかれるのは誰であれイヤに感じるものだよな。
とはいえ俺はあまり話し上手じゃないから一方的にルナの話を聞く係しかしていなかったけど。
聞き上手という訳ではない、「うん」とか「そうだね」としか言わないのだから。
「それじゃあ、ルナ。行ってくる」
「うん、それじゃあ。放課後また、会おうね」
「ん? ああ」
放課後も会うのか。
まあ、放課後と言ってもやる事はないし別に良いか。
原作の俺はナンパして手ごろな女の子としっぽりしているだろうが、今の俺にはそんな度胸も余裕もないしなぁ。
「それじゃあ、行こうかの」
「はい」
「それじゃあ」
ぱちん。
学園長が指を鳴らして見せると、次の瞬間視界が切り替わりそこそこ見覚えのある園長室に立っていた。
何故、見覚えがあるのか。
……エロゲに置いて散々濡れ場の舞台になったからです。
早い段階で堕ちた学園長は嬉々としてここを『そういう』事をするための場所として提供したのだ。
広いし、何故か大きなベッドもあるし、便利な(ある意味ご都合主義な)道具もいっぱいあるしとエロゲの舞台としては申し分ない。
「さて」
と、学園長は本来の俺が偉そうにふんぞり返って座っていた立派な椅子にちょこんと腰掛け、そう前置きをしてから話し出す。
「まずは、改めて。魔王軍の幹部を倒し学園を救ってくれた事を、この学園の創立者として礼を言わせて貰おう――ありがとう」
「いえ。勇者として、当然の事をしたまでです」
「人間としては当たり前の事ではないだろう。剣を持っても脅威と戦える人間はそういない。ましてや、自分よりも強いかもしれない強敵相手では、猶更な」
「それは――」
違う。
俺は決してそんな人間ではない。
魔物から逃げたし、あの魔族と鉢合わせになった事も偶然だ。
運よく勝利をもぎ取る事が出来たが、きっと二度目はないだろう。
「なんにせよ、勇者。ジョンよ、我々としてはお前に何らかの報酬を出したい。出来る限りの事は叶えてやるが、何が良い?」
「……俺にそんなものを受け取る資格は」
「ないと思っても良い。ただ、アイリス王女がお前に報酬を上げたがっているのでな。こちらとしてはそれを無下には出来んのだ」
「アイリス王女……」
ヒロインの一人である。
キャラとしては無知キャラ担当。
空色の髪に黄金色の瞳。
王女と言っている通り、王族の人間だ。
将来的に勇者の奴隷として学園長と共に素っ裸でリードに繋がれ夜の学園を散歩したりする事になったりする。
一応この学園に通っているが、今のところ遭遇していない。
ちなみに主人公のグレン君とも過去に会っていたりするのだが、本人はその事をすっかり忘れていたりする。
憐れなり、グレン君。
「ていうか、そう言う事なら本人が現れそうなんだすけど、今、彼女は何しているんですか?」
「がっちり保護されておる」
「保護?」
「第二王女ではあるが、それでも王族は王族じゃからのう。魔王軍が攻めてきたという事で二度目がないとも限らないし、今は安全なところで引き籠って貰っておる」
「なる、ほど」
「王女は言っておったぞ。『是非とも会って話したい』と」
「そうですか」
「何なら、今から話しに行ってみるか? 護衛の連中も勇者のお前ならば通してくれるじゃろうからなぁ」
「それじゃあ」
俺は頷き、答える。
「今回は、そのアイリス王女と謁見するという事で、それが報酬と言う事で良いです」
「うーむ。私としてはそれでも構わないが、アイリス王女はそれで納得してくれるものかのぉ?」
渋い表情を見せる彼女に俺は「それでも、俺はそれで良いです」と言う。
原作を愛した人間として、何かする訳ではないけど会って話をしてみたいという気持ちがない訳ではない。
むしろ、こうしてお膳立てして貰わない限り、一生出会って話をしたりしないだろうからな、俺って。
チキンで小心者、それが今の勇者である。
「そう言う訳で、お願いします」
「うむ。それで良いと言う事なら、それなら今から向かおうかの」
「え」
今から?
ちょっと待て、こっちも少し心の準備をする時間が欲しいのですが――
「じゃあ、行こうか」
ぱちん。
俺が待ったを掛ける間もなく、学園長は再び「ぱちん」と指を鳴らすのだった。
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