第二話
話は五年前に
アデルナは十二歳の時に父ザイフェルト公爵に願い出た。王立魔導学校に通わせてほしい、と。
王立魔導学校は国が魔導士の養成を目的に設立した専門学校だ。専門性とレベルがとんでもなく高い、十五歳以上が通う四年制の学校だ。そこを特待入学したいという。年齢が満たない場合は試験に合格して特待生になる必要がある。
娘に甘い父はそうかそうか、と試験を受けさせた。受かるなんて一ミリも考えていなかっただろう。言い出したら聞かない娘も落ちれば納得するだろうし、と試験に送り出した。実際はぶっちぎりで合格。父は娘の才能に驚愕した。
魔術系の家庭教師はついていなかったので独学で、ということになる。大変な才能だ。十二歳だったが魔導学校側も才気あるアデルナを嬉々として受け入れた。
学校に通うにあたっては父より卒業後は必ず魔術学園に行くという条件がつけられた。こうしてアデルナの魔導学校への入学が決まった。
すでにアデルナの従者として側仕えについていた十五歳のイザークは内心ほっとしていた。魔導学校は全寮制。このお姫様が在学中は自分は穏やかな日々を過ごせる。そう思っていたのだが。
「あんた、私が在学中は騎士学校に入りなさい。」
「はあ?なんでですか?」
「私がいないのに家にいても暇でしょ?今年十五なら年齢は問題ないし学費はうちが出すわ。」
姫がいない間は悠々自適に穏やかに過ごしてやるのに!と腹の中だけで吐き捨てつつ、顔はかしこまる。
「いえ、恐れ多いことです。自分は身寄りもなくこのように日々の糧を頂けているだけでも十分ですのに、学費までいただくなど。そのようにしていただける程の働きもしておりません。」
ここまで言えは逃げ切れるだろう、普通は。しかしアデルナは冷めた視線を投げるだけだった。
「なに殊勝なふりしてるのよ。そういうのいらないから。それに誰が満額出すと言って?騎士学校は六年制、四年で出てらっしゃい。それ以上の学費は出さないわ。」
三つ年下の令嬢にそう言われイザークは慄いた。飛び級前提か?!ひどすぎる!!しかも四年?姫と同年に卒業しろと?
「人は追い込まれないと必死にならないものよ。のらくらぬるく学ぼうなんて百年早いわ。」
「しかし飛び級‥座学はいいとして武術が‥」
「武術は十分よ。なんのためにあんたを鍛えてたと思っていて?私がただのいじめっ子みたいじゃない。」
そう、イザークはこの公爵令嬢の武術の相手を毎日させられてそれはもうボコボコにされていた。それも剣、槍、短剣、弓、投擲、体術と日替わりで。そのゴリラのような怪力は半端なかった。重ねて言うがこれは公爵家令嬢のことである。
そうか、あれはいじめじゃなかったのか。指導にしては滅多打ちが過ぎると思いますが。しかし本人にくらいその意図は言っておいて欲しかった。
このお姫様は子供の頃から剣術その他もろもとを学んだ。令嬢だし護身術程度‥‥と思われたところ、神童か!と剣術師匠に褒められるくらいメキメキと強くなった。
とんでもない怪物だ。公爵令嬢なのに。
ザイフェルト家はその昔名将と言われた王弟が王家より分かれてできた公家。それ故か将軍を多く輩出した武の名家なのだから血筋とも言える。
こうしてアデルナが在学中にイザークも全寮制の騎士学校に通うことになった。
学費が四年分しかない。イザークの性格上、途中退学は嫌だ。こうなれば四年でなんとしても卒業してやる!
イザークはそれはもうがむしゃらに頑張った。武術訓練については姫の鬼特訓に比べれば、ぬるいを通り越して池水の様であったのが幸いか。それとも自分の今までの不遇を嘆くところか。
それに全寮制ではあったが、あのモンスターお嬢様から解放された!精神的な自由を謳歌できる!というのも助けになった、途中までは。
その努力で二年飛び級を果たし、四年後に十九歳で卒業を迎えた。
二年飛び級をしたのは学校始まって以来の快挙だ!と言われていたのだが、その記録はすぐに塗り替えられた。
卒業間近に開かれた騎士学校卒業祝賀パーティ、イザークの隣にはアデルナがいた。
「パーティでは私をエスコートなさい。」
指名されイザークはため息をついていた。
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