クルマについてのエトセトラⅡ

詩川貴彦

第1話 目からウロコの「セダン」

「目からウロコのセダン」


「動物おじさん」はワシの大親友であり、先輩でもあり、アイフォンとトヨタ車を愛用してやまない典型的なS根県人です。

 動物おじさんはワシほどクルマに関心やこだわりがありません。一台のクルマを長年愛用して乗りつぶしたら新しいクルマを現金でポンと買うというサイクルを繰り返しています。もちろんセルフで給油したり、またブラシ片手にセッセコ洗車したり、空気圧を調整したりしたことは一度もありません。すべてスタンド任せのディーラー任せです。給油のついでに機械洗車して気が向いたら惜しげも数万円を平気で使って定期的にコーティングをしています。それからディーラーに言われるままに定期点検を受けてオイル代えてタイヤもバッテリーも交換しているので、おじさんのクルマはいつもキレイでいい調子を維持しています。つまり自分では何もしないけれども、それなりにメインテナンスされています。

 現在のおじさんの愛車はトヨタのSAIという結構な値段のマイナーチェンジ後の小洒落たハイブリッドカーですが、いわゆる普通のセダンです。前に乗っていたマークⅡが古くなってきたのでいつものように気分で買い替えたそうです。8年落ちの12万キロ走行のちょっとヤレが出てきたような状態だと思ってください。ここがこのレポートの重要なところですから。


「土曜日5時半に迎えに行く。ラーメン。」

 いつものようにおじさんから突然ラインが入ったので、先週末の夜に二人で隣の県までわざわざラーメンを食べに行きました。

 ワシはいつも甘えておじさんのSAIの助手席に乗って出かけています。というか前まではワシのアルトで行っていたのですが「中が狭い」とか「乗り心地が悪い」とか挙句の果てに車酔いまで発症してしまって以来、おじさんがSAIを自分で運転していくようになりました。

 そいでもってラーメン食べて帰り、おじさんが疲れた様子だったので、ワシは後輩として忖度してはSAIを運転することになりました。

ワシはその時は「しょせんトヨタのクルマ」だと舐めていました。トヨタの素人向けのつまらんクルマだと思っていました。ところがですね、これが運転してみたらものすごくいいのです。何がいいって「走る・曲がる・止まる」がものすごくいい。この定期点検以外はロクに手入れもされていないダンパーのへたった8年落ち12万キロ走行の普通のセダンなのにものすごく運転しやすい。曲がりやすい。乗りやすい。飛ばしやすい。

「なんで?」

 具体的に言うと、曲がりがいい。ブレーキをちょんと当てて前輪に荷重を移してハンドル切るとものすごく素直に曲がっていく。グリップ過ぎてアクセル踏むとこれまたものすごくきれいに気分よく思い通りに立ち上がっていく。一連の操作にきちんと反応して思い通りに走ってくれる。こんないいクルマは久しぶり。これまで乗ったどんなトヨタ車よりもいいような気がする確信する。このまえ乗ったCHRよりも絶対にいい。ルーミータンクなんか問題にならんしアルファードなんかよりは100倍は気持ちええ。ワシのキューブよりはぜったいええし、下手したら走りクルマのフォレスターXTよりも動きが素直だ間違いないしええかもしれん。

 この古いちょっとやれたセダンがウソみたいにええことが不思議でたまらんのですよ。トヨタって時々偶然こんな動きの素直な名車を作るじゃあないですか。「昔の86」とか「スターレット」とか。気合を入れて作った「アルテッツア」は大失敗でしたが、気合を入れんかったら時々名車ができるときがあるど。さすがトヨタ!でもそういうたぐいのクルマじゃあないし、なんでこんなにええんでしょう。

そんとき思いついたのが、このクルマの「セダン」という「パッケージング」でした。「セダン」と言うパッケージングは「ミニバン」とか「SUV」とか「ハッチバック」とかいうパッケージングよりも走りに関しては確実に優れているんじゃあないかと言うことです。

 そのとき思い出したのが、ワシの大好きな福野礼一郎さんがずっと昔からおっしゃっている「物理」という基本でした。えらいのう。ワシは。(←うそ)

 そういえばわしが最近乗ったクルマは「セダン」以外ばかりじゃったですね。「セダン」には一台も乗っていないしこの最近乗ったことも所有したこともない。

 思い出してみると最近乗ったクルマは、確かにダメじゃったですね。あれもこれもダメ。だって重心が高くて重くてうるさいし、運転しにくいし。ダラダラ走るのはまあなんとかええけど、ちょっと速く走ろうとしたらダメ。

 ワシはこのとき改めて「セダンってええなあ。」と思ったのです。

 エンジンルームと乗車空間と荷室がきっちり分かれていてそれぞれの部屋がきちんと遮蔽してあって剛性高くて低重心で無駄なく無理なく設計してあって、いわゆるクルマの基本がきっちり抑えてある設計パッケージングのクルマです。

セダンは不人気だというけれど、やっぱり乗ってみるといい。クルマとしていい。走る曲がる止まるがいい。物理に乗っ取って運動をきちんと考えてあるセダン。確かに広いとか大人数でも乗れるとかそういう付加物はないけれど走る機能というか感触が断トツにいい。気持ちいい。

 ワシは目からウロコが100枚ぐらい落ちる思いでした。いかにワシがもしかしたらみなさんも広いとか悪天候に強いとか、いろんな付加物にだまされて、明らかに物理的にいびつなクルマに乗っているかがよくわかりました。

だまされたと思って乗ってみてください。普通のセダンで十分です。物理的な特性がイヤでも体験できます。古くても多少ヤレとってもタイヤがボロでも大丈夫です。物理には関係ない。セダンの優れた物理的特性は「永遠に不滅」ですから。

というわけで、この歳になってやっと気づいた考えた。

 ワシ、小さめの普通のセダンが欲しくなったのう。お金ないけど。











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