赤いきつねの湯気につつまれて・・・

アオヤ

第1話

ピピピッ ピピピッ


味気無いアラームの音が寝室に鳴り響く。

さぁ〜、一日の始まりだ。

今日は特別な一日になりそうな気がする。

半分寝ぼけながら俺は起き上がる。

昨日までときっと違ったワクワクする事、ビックリする様な事が今日はきっとある。


・・・そんな話しを以前、小6の娘の紗名にしたら「いい歳したオッサンが中二病かよ?」と言われた。


まぁ実際はつまらない月曜日の始まりだ。


俺はなんでこんなに一生懸命頑張ってるんだろう?

自分の為?

家族の為か?

そんな事を考えながらリビングに降りて行った。


「おはよ〜。」

妻の裕美に声をかけた。


裕美は「はぁ~~」って俺をみてため息をついた。

いつもはそれをながして食パンを焼き、コーヒーを入れ、ヨーグルトを取り分ける動作を黙って無意識にやっている。

でも今朝は・・・ 

小さな抵抗をしてみた。


「ヒトの顔見てため息つくなんて・・・ まるで俺が甲斐性なしみたいじゃないか?」


「そんな事言って無いわよ。2時頃から眠れなかったの。朝からダルいんだから仕方ないじゃない。」


「例えそうであっても・・・ 一日の始まりからため息つかれたら・・・ 仕事が憂鬱になっちゃうよ。」


「私だって仕事なんだから一緒だよ。今朝は起きられなかったからお弁当作れなかったけど・・・ はやく起きた時はちゃんとお弁当つくってるじゃない!」


ため息の話しがお弁当の話しにすり替えられ・・・

俺の小さな抵抗は呆気なく押し潰された。

いつもの様に皿を洗ってる俺に今朝の裕美は紙袋を差し出した。


「これでもお昼に食べればいいでしょう。」


上から目線でそんなふうに渡されると・・・

紙袋の中は赤いきつねと塩こんぶのおにぎりが入っていた。

俺はありがとうも言わず黙って受け取り、出勤の身支度をする。


朝七時、いつもの時間に出かけようとすると、紗名が玄関で見送ってくれた。


「いってらっしゃいパパ。玄関の鍵は閉めるから大丈夫だよ。」


玄関を出るとリビングのカーテンの隙間から紗名は顔を出し、手を振ってくれている。

俺も周りをチラッと見て手を振り返した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る