女戦士と「捨て男」のオレ
永嶋良一
第1話 「捨て男」ってなんだ?
オレは眼が覚めた。
草の中に寝ていた。身体を起こすと・・・・なぜか、そこは林の中だった。木々のカーテンの中に木漏れ日が何筋かのまっすぐな光の線になって差し込んでいた。光の中に埃の粒が舞っていた。地面は草が覆っていた。オレは立ち上がった。
「どうして、こんなところに?」
オレは錦戸浩太郎。大学生だ。昨日、新歓コンパでさんざん騒いだ後で、夜遅くに下宿に帰って、そのまま寝てしまった。そして眼が覚めると、なぜか林の中にいたのだ。下宿のまわりに林はなかったはずだ。ここは一体どこだろう?
オレは歩き出した。歩いていると、ここがどこかが分かる気がした。
しばらく歩いた時だ。背中で何かうなり声がした。
振り向くと、林の中に四つ足の大きな獣がいた。真黒な毛で全身が覆われている。金色の眼が光っていた。2mはあった。犬だろうか? 犬にしては大きすぎる。狼か? いまの日本に狼がいたのだろうか?
獣が口をあけた。真っ赤な口の中に鋭い牙が光った。ウウーといううなり声が出た。獣が地面に身体を低くして、オレに飛びかかる姿勢をとった。オレはゆっくりと後ずさりした。いったん獣から距離を取って、走って逃げようとしたのだ。しかし、オレは間に合わなかった。オレが距離を取るより早く獣がオレに飛びかかった。すごい力だ。オレは後ろ向けに獣に押し倒されてしまった。
オレの眼の前で獣の口が大きく広がった。たちまち、口が耳まで引き裂けた。口の中で鋭い歯がまた光った。獣の歯がオレの首筋に迫った。オレは顔をそむけた。獣の顔がオレの顔の横をかすめて草にぶつかった。草がちぎれて飛んだ。噛まれる。オレの背筋が冷たくなった。
獣が顔を戻した。また口を大きく開けた。今度は舌が出てきた。舌が軟体動物のように、くねくねと動いた。舌が獣の顔をなめた。べちゃりという音がして、唾液がオレの顔に落ちた。生臭い臭いがした。今度は舌が伸びてきて、オレの首に巻きついた。舌がオレの首を絞めつけた。苦しい。オレは喘いだ。
そのとき、声がした。
「まて、魔犬」
光が走って、獣の身体が宙に飛んだ。獣は背中を地面に打ちつけると、四肢を宙に向けてバタバタさせた。そして、一声「ぎゃふん」と鳴くと動かなくなった。
オレが眼を上げると、若い女が立っていた。西洋の鎧のような甲冑を身に着けて、手には大きな剣を握っていた。女戦士のコスプレだ。下はひざ丈のスカートだ。スカートからすらっと伸びた生足がなんともなまめかしい。オレはごくりと生唾を飲み込んだ。
女戦士がオレに言った。
「あなたは誰?」
オレは何と答えたらいいのか分からず、とっさに本名を答えた。
「オ、オレは錦戸浩太郎」
オレは立ち上がった。女戦士がオレを見てびっくりしたようだ。
「あなた、男の子なのね・・・・『捨て男』なのね」
つづく
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