第5話



 楽しく喜びに溢れた美しい日々ほど過ぎ去るのは早いもの。約束の三日目の朝、シャーシャンは自分と同じくらいの大きさのリュックを背負っていた。中にはお母さんが買ってきた、新しい服や下着に、シャーシャンにピッタリ合うサンダルや靴が入っている。

 シャーシャンは俯いて施設の男の人を待っている。やがて、施設の人がやって来てシャーシャンの手を取った。そして、

「ちゃんと、ありがとうってご挨拶しなさい」

と言われるとシャーシャンは玄関で、ぼたぼたと涙を落としながら、何度も言葉にしようとするが声にならない。俯いていた顔を上げて口を開けようとするのだけど、涙が止めどなく流れて言葉を失わさせてしまう。

「どうも、ありがとうございました」

と施設の人が言うと、シャーシャンの手を更に強く握り、出口の方へ向きを変えさせた。


 シャーシャンが玄関を出て、施設への道を、左右に揺れる大きな荷物に隠れて、殆ど見えない背中をお母さんは見送っていた。


 シャーシャンは、黙ったまま、トボトボと施設の人に手を引かれて歩いている。お母さんは、これでいいのか? と思って佇んでいたが。これで言い訳なんかない! そう思うと真っ直ぐに施設の人の方へ走って行き、シャーシャンの俯いて顔を上げない、その身体を抱きしめて、

「この子の里親を募集していますでしょうか?」

と言った。

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