第29話

指輪


舞はプレゼントを持って十思の家の前に立っていた。いつも何気なく押している104号室のインターホンだったが、今日は凄く緊張していた。


恐る恐る人差し指をインターホンに近づけていると、十思が足音を立ててドアを躊躇なく開けた。私は思いっきりドアに激突して、尻餅をついた。その衝撃でプレゼントも手からこぼれ落ちてしまい、十思の足元で止まった。


「あ、ごめん!居たの気付かなかった」

十思は尻餅をついている私の方を見て、手を合わせながら誤ってくれた。


「別にいいけど、次からもっとゆっくり開けてよね、凄く痛かったんだから」

私は頭を抑えながらそう言ったが、視線は十思ではなく、プレゼントの方に向いていた。心の中では速く渡したいが、自分から渡したいという気持ちがあって、どうにか気づかないでほしいと思っていたが…


十思は、私の視線の先を目で追いかけて自分の足元を見てしまった。


私は咄嗟に体勢を直してプレゼントを十思よりも速く取ろうと思って動いたが、流石に間に合わず、取られてしまった。


「これなに?」


私はお尻をはたいて苦笑いしながら、答えた。


「誕生日プレゼント、今日は十思の誕生日でしょ?」

なんて、最悪なプレゼントの渡し方なのだろう、多分こんな渡し方は最初で最後だろうなと、思い心の中で深いため息をついた。


「あ、そう言えばそうだった」

十思はまるで他人事かのように呟いき、私の方を向いて「ありがとう」と言ってくれた。その笑顔は入学当初に見せてくれた笑顔のように美しかった。


「改めて、誕生日おめでとう!」

私はニコッとしてそう言った。


「これ、今開けてもいい?」


私は緊張しながら頷いた。十思は正方形の箱に包装されている紙を丁寧にゆっくりと破いていった。


私は唾を飲み込みながらその様子をみていた。心臓の鼓動が耳元で聞こえる。何でこんな事で緊張しなくてはいけないのだろうかとも思ったが、それだけ一生懸命に選んだから、緊張しているのだろうと思った。


十思は包装を破き終わり包装紙を自分のスクールカバンに入れて、正方形の箱を開けた。


箱の中には、銀色に輝く指輪が二つ入っていて、朝日が反射してまぶしい。


舞もひとつ指輪をとって左手の薬指にはめて、朝日に向かってかざして、見惚れていた。同じく十思も指輪をはめて私の隣で「綺麗だね」って囁いてくれた。


ふと私はスマホの時間を見ると八時二十五分を過ぎていた。


「ねぇ、十思、学校って何時からだっけ?」

私は寝ぼけたような顔をして十思に聞いた。


「えっとね、八時半からだよ」


「そっか~急いで学校まで走らないと遅刻するね」


私たちは学校まで猛ダッシュし始めた。





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