吸血鬼な先輩声優さんが、私の腕を噛んできます
結城十維
第1部 吸血鬼とのハジマリ。
1章 引退って聞いていません!
1章 引退って聞いていません!①
「あと1年で、私は声優引退するから」
「えっ……?」
私、
事務所で憧れの先輩に出会い、興奮のあまり、
「会いたかったです。憧れです! 最推しです。握手してください! あのサインも貰っちゃってもいいですか……?」
とオタク丸出しになりました。
私もプロになったのだから、こういうファン的なことをしては駄目! とは思うのですが、あのミラさんが目の前なんですよ? 大好きを抑えることなんて到底無理な話です。
でも先輩は快く受け入れてくれて、「あ~声優になって良かった!」とこの時初めて感激したんです。
で、そこから先輩のとんでも発言により、ジェットコースターもびっくりの急降下ですよ。
『引退』。
先輩があと1年で引退?
「ミラさん、今年で引退ってどういうことですか……?」
この声優事務所で1番人気の声優さんであり、歌手としても大活躍しています。
いや、この事務所どころの話ではありません。
25歳と20代半ばの年齢にして、ベテランのような風格があり、声優ランキングがあったとしたらトップ5に確実に入る超人気声優なんです。
大きくない身長ですが、その銀色の髪の存在感に加え、独特な声はこの世のものとは思えないほどに神秘的です。
深みがあって低く、ややかすれているのに、透明感もあり、他の人と混ざっても『千夜ミラ』だとすぐにわかる個性的な声。そして吐息がめっちゃエっ、扇情的なんです!
唯一無二の声は、クールなキャラ、お姫様なキャラ、時にはヤンデレキャラで十二分に発揮されてきました。
そして、歌。
声優界の三大歌姫の一人と言われるほどに、彼女の歌声は人々を魅了し、惹きつけます。彼女の不思議な声に心が癒され、気づいたら泣いている。けど落ち込むような涙じゃなくて、また頑張ろうと思える。ミラさんはそんな女神とでも呼べる存在なんです。
そんな千夜ミラ先輩に憧れ、そして夢を実現するために私はこの事務所に入りました。
なのに、引退って聞いてない!
「言葉通りだよ。期間限定の声優活動だったんだ。なあそうだろ、恵実」
話を振られ、社長の
「残念ながらその通りなの、
「ああ、5年間の声優活動という約束で、今年が最終年だ」
「そんなこと聞いていませんーーーー!」
「……といわれてもな。事務所内でも知っているのはごく少数だ」
一般の人は当然知りません。
人気絶頂の千夜ミラが引退する。
そんな重大事件を知っていたら、日本中のオタクたちが大騒ぎで、大混乱です。
「辞めないでください! やっと先輩に会えたのに、これから仕事を一緒にできると思ったのに、ひどすぎます!」
「ごめんなー。でもこればっかりはどうしようもなくてな」
「私、ミラさんの引退、絶対に認めませんから!!」
今にして思えば、
これが私の始まりで、
ミラ先輩との長くて短い時間の始まりだったのです。
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