Day.10 水中花
「おばあちゃん、カミノが!」
「ああ、行っちまったね」
「そんなこと言ってる場合じゃ」
「大丈夫だよ、誰の仕業かはわかってる。まあ、あれも変わり者だけど信用はしていい」
「どういうこと?」
「
「きいたことも何も」
ルミナは耳を疑った。
「それって水の大精霊じゃない」
「そうさ、人間にやたらとちょっかいを出したがるあの大精霊様だよ」
ルリアスといえば人間の王族と縁を結んで久しく、あまりに高位なので彼の奇行には誰も口出ししないという、精霊界の例外が服を着て歩いているような存在である。
「あれとはちょっと因縁があってね。居所もだいたいわかるし対策もしてあるから問題ない」
そう言って抽斗から取り出したのは、瓶いっぱいの紙の蕾だ。レイヤはそれをひとつ、飲みかけの紅茶のなかに落とす。すると蕾は水を吸ってみるみる花開き、なかから人差し指ほどの小さなこどもが現れた。
「これは?」
「ルリアスの分身だよ。むかし大喧嘩したときに引きちぎってやったんだ。この子についていけば、その先に必ずあいつがいるという寸法さね」
「おばあちゃんなにやってるの……」
祖母の過去は謎に包まれている。昔話を聞きたいような聞きたくないような、ルミナはあまり深く考えないことにした。ひとまずカミノに危害が及ばないとわかってみると、今度はだんだん腹が立ってくる。
「今日こそゆっくりおしゃべりできると思ったのに!」
「おや、妬いてるのかい。おまえも怖いもの知らずだね」
「だって楽しみにしてたのよ!」
レイヤは孫を興味深く観察した。ルミナは素直に感情をあらわにする。これは若さによるものか、己に連なる血のなせるわざか。
「あれ、カミノといったかね、あの子もあんたぐらい笑ったり泣いたりできたらいいんだけどねえ。辛気くさいったらないよ」
カミノの炎が燻っているのは、当人が魔力を扱いかねているからばかりではないだろう。本来、炎を宿した人間があんなにおとなしいわけがないのだ。
これは相当根が深いね、とレイヤはひとり嘆息した。
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