其の一 信長、異世界に立つ
幾百度目かの本能寺の炎に身を焼かれ、わしの意識は永劫の闇の中へ落ちていった。願わくば来世では平凡な庶民に生まれ変わり、「織田信長」の宿業から逃れたいものだが、それが叶わぬ夢であることはわしも身に沁みて知っておる。わしはきっと、この宇宙が終わるその時まで信長であり続けねばならぬのだろう。
「――ちょっと、おじさん。ちょっと」
あれからどれほどの時が経ったのか分からぬ。わしが闇の中で最初に聞いたのは
「起きてってば。もうー、困っちゃったなあ。おーじーさーんー」
この
「……ひょっとして、死んじゃってるの? 困るよぉ、アナタと一緒に世界を救えって言われたんだからぁー」
「そんなに揺さぶらんでも起きておるわ」
声帯を震わせ声を発すると同時に、わしはぱちりと目を開けた。眼前に映るのは、困り顔からたちまち驚きの表情に転じる色の白い
なるほど、
「あっ。……よ、よかったぁ」
わしが生きておることに安堵したのか、
この格好は
もっとも、知性の欠片も感じさせぬこの軽薄な口調と、周囲に迎合して染めただけかのような髪色、「すかーと」の丈の短さなどを見るに、その澄ました顔の裏には如何なる「びっち」の本性が潜んでおるのか分かったものではないが。
「……何ジロジロ見てるのよ、おじさん」
「おぬしに興味などない。わしとおぬしの意識が入れ替わる『ぱたーん』でなくて良かったわ、と、胸を撫で下ろしておったところじゃ」
「えっ、ムネをナデオロスとか、ちょっと、何、キモいんですけど」
参ったな。
「おぬし、わしが誰だか知っておろうの?」
「えっ、ハイハイハイ、知ってる知ってる! なんか昔のエライ人でしょ。えっと、たぶん戦国時代とかの人。あ、わかった、
「かすりもせんわ、たわけ!」
わしの怒声に
「えっと、じゃあ……
「それは架空の人物であろうが。もうよい、もうよい」
「わしは、織田
その名を聞いた瞬間、
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