[毎週更新!]17歳の世界樹
@kuramu724
第1話 ①
廊下にカツカツと響く革靴の音で目が覚める。格子状の窓からは春にしては少し強いぐらいの日光が射し込んでいる。
俺は明日この刑務所をでる。明日以降この景色を見ることはないのだと思うと少しだけ寂しくなるがしょうがない。
ずっと左からガチャンというか音が響きながら近づいてくる。毎日恒例の労働作業の時間だ。だが今日の俺は出所前の最後の休日ということで作業が特別に免除されている。ぞろぞろと出てくる顔なじみの囚人の羨ましそうな視線を尻目に俺は「成都トウヤ」と名前が書かれた1冊のノートを小さい机の上に広げる。
これを書くことにあまり意味は無い。基本的に刑務所の中のものは持ち出せないし、これを誰かに見られたところでなにか不都合なことは無い。せいぜい精神患者の妄想と吐き捨てられ明日の焼却炉の肥やしになるぐらいだ。意味があるとすれば俺があの子との逃避行を忘れていないということが確認できるということぐらいだろうか。自分で言っていてふふっと笑いが漏れ出てくる。あんな大事件、忘れようと思っても忘れられないものだ。そう思いながら俺はページを開きペンを握った。
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