匿名短編コンテスト未来編で面白い作品を探したい人への光明
「
「
僕が突っ込みを入れると、彼女はいつものごとく僕のチェアの背もたれを後ろからガッとつかみ、重たい胸部の双丘をたゆんと僕の後頭部に押し付けながら言った。
「
「また調子のいいことを……。板野さんに怒られますよ」
「あのベニヤ、こんなことじゃ怒らないわよ。毎回毎回、主催者直々に狂った作品を放り込んじゃ『皆さんもこのくらいハジけていいんですよ』とか
「……まあいいですけど。とりあえず、その重たい何かをどけて下さい」
後頭部にかかる圧力から逃れ、僕はクルリと椅子を回して彼女と向き合う。
「それで? 今回は何を見つけたっていうんです」
「だから、匿名短編コンテスト未来編の最高傑作よ! その名も『未来少女アスナ』!」
「清々しいくらいダイレクトにマーケティングかましてきやがったな」
「未来編の作品ももう50作近くあるでしょ。どれから読むか皆迷ってると思うのよね。だからこの私が巧妙に光明を示してあげようってわけ!」
「このダイマが巧妙だっていうならオリコンチャートのAKBですら巧妙無類ですよ」
「いいから聞きなさいって。この『未来少女アスナ』って作品には不思議な魅力があるの」
「自演乙」
「文章もしっかりしてるし、コンセプトの発想も斜め上に突き抜けてる。笑いのテンポも良くて、その上ヒロインはちゃんとカワイイのよ!」
「よく自分の作品をそこまで恥ずかしげもなく褒めそやせますね」
「
「いや、他人の作品だとしたらルール違反ですから。この匿名コン、一次創作限定ですから」
「何言ってるの。ヨソサマの作品をただ話題に出すだけなら二次創作にはならないわよ。私が『ラノベだと涼宮ハルヒが好きなの』って言ったらこの文章は涼宮ハルヒの二次創作ってことになる? ならないでしょ?」
「先輩のキャラ付けはまんまハルヒの劣化劣化劣化コピーって感じですけどね。ていうか」
組んだ腕に胸を乗せてふんぞり返る先輩を、僕はじろりと睨んで言う。
「匿名コンに『当該テキストだけで一つの作品として成立していること』って規程があるのを知らないんですか。未来少女アスナとやらが誰の作品だろうと、それを読んでないと意味が分からないようなテキストはルール違反ですよ」
「何言ってるの、考えてみなさいよ。仮に私が
「はい?」
「だーから、例えば『僕の研究室の巨乳先輩が才色兼備の美少女すぎて困っちゃう件』は匿名コン最高傑作よね! みんな『僕の研究室の巨乳先輩が才色兼備の美少女すぎて困っちゃう件』を読むべきよ! って私が言ってたらどうなのよ」
「さりげなく僕を洗脳しようとしないで下さい。どうなのよも何も、何が言いたいんですか」
「『僕の研究室の巨乳先輩が才色兼備の美少女すぎて困っちゃう件』を読んでないと意味が分からないからルール違反だ、って言う?」
「いや、存在しない作品を読んでなきゃも何もないでしょ」
「そうでしょ。じゃあ、実在する作品で同じことをやったってお咎めナシよ。『未来少女アスナ』って応募作が現実にあろうとなかろうと、読者がそれを読んでようと読んでまいと、私の話を理解するのに何ら影響ないもの」
「そうかなぁ……」
「だから、結局ここでは自分の作品だろうと他人の作品だろうと自由に宣伝していいってわけ。どう、長い匿名コンの歴史の中でも前代未聞のアイデアでしょ? 作中で別の作品をステマしちゃうなんて!」
「だからステルスしてないんですって」
呆れて溜息をつく僕をよそに、先輩はクルッと回ってキュピーンと天を指差すポーズを取った。
「タイムパトローラー・
僕は、きょとんとして先輩を見る。
「……何ですか、それ」
「知らないの!? 未来少女アスナの決めゼリフと決めポーズじゃない!」
「いやいやいや、知りませんって。未来少女アスナにそんなシーンなかったでしょ」
「え? アンタ、読んでないの!? 『未来少女アスナ Episode.03
「いやいやいやいや」
ピキーンとか言いながら光線銃を撃つ真似をしてくる先輩を普通にスルーして、僕は顔の前で手を振った。
「匿名コン未来編の『未来少女アスナ』は僕も見ましたけど、Episode.01しかなかったじゃないですか。なんか昭和の人が思い描いた未来から変な少女が主人公の部屋に来るだけで終わりでしょ」
「何言ってるの。未来少女アスナはEpisode.50まであるわよ」
「はぁぁ!?」
「最終回、自分の未来に帰ったはずのアスナが、2019年で一人戦う主人公のもとに戻ってきて、アナザーフューチャーとリアルフューチャーのテクノロジーを合わせて時空乱流を食い止めるシーンは熱かったわねえ」
「微塵も知らねえ」
「ラストシーンは涙なしには見られなかったわ。想いが通じ合ったことを確かめながらも、別れ別れになる二人……。だけど最後に主人公は言うのよ、『俺の作る明日はお前の未来に繋がってる、だからこれは別れじゃない』って」
「息をするようにラストシーンのネタバレかましやがった!」
そこで僕と先輩は顔を突き合わせ、互いに「?」と首をひねった。
「ねえ、念のため聞くんだけど、今って何月何日?」
「10月4日ですよ」
「やっぱり! どうりで話が噛み合わないわけだわ。私が居たのは10月31日、匿名コンの応募受付最終日だもの」
「はぁ。つまり先輩は」
「そうよ」
「「未来から来た」、と……」
雑にお題を回収しやがって、と呆れる僕の前で、先輩は無駄に大きな胸をたゆんと揺らして、にかっと笑ったのだった。
◆ ◆ ◆
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【未来032】未来少女アスナ Episode.01「2009年の美少女」
(※再掲時注:匿名短編コンテスト当時、ここには上記作品のURLが記載されていました。)
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