第30話 天才重戦士、別に気にせず判断を委ねる

 その一言――

 その一言はきっと、感情的になりすぎたがゆえの言葉だったのだろう。


 それが証拠に、言った直後、クゥナ自身がハッとして言葉を止めた。

 そして気まずそうに俺を見て、こいつはまたうなだれる。


 だが謝罪を口にしようとも、クゥナの本音がどこにあるのか。

 一発で分かる一言だったな。


「ふざけるなよ?」


 そしてランがキレた。


「おまえ、グレイに頼りに来て今の一言は何だ。どういうつもりだ」

「オイ、ラン」

「グレイなら助けてくれると思って来たんだろ? なのにそれか!」

「ランってば」

「グレイのレベルが上がらないのだって、もとはといえば――」


 おっと。


「ラン。それ以上言うなら一時間ぶっ続けで乳揉む」

「やめて!?」


 両腕でお胸の凶器をバッと覆って、ランが大きく後ずさった。


「おめーもブチギレて余計なこと言いなさんなっての。ったく」

「う、悪かったって……」


 ランが俺に謝ってきた。こいつも素直なこって。

 ま、大して気にしちゃいないし、それに、と、クゥナを見れば、


「うう、怖かった。すごく怖かったのよ……」


 すっかり縮み上がっていらっしゃる。

 天下の『エインフェル』が。最上位のAランクが。最強の王位級が。


 あー、いいザマですこと。

 そして、ここでグレイさんに絶好のチャンス到来ですわよ?


「おい、クゥナ」

「ひゃい!?」


 名を呼ぶと、クゥナはただちに背筋を正した。


「もう一回ナメたクチ叩いてみろ。こちらのラン先生をけしかけるからな」

「待て、僕は狂犬か何かか!?」


 獰猛注意という意味では似たようなモンじゃろが。


「で、おまえの狙いはそこなワケね。自分が“大地の深淵”に行くために俺達を口実にしようとした。一人で行くのが嫌だから。……そんなトコだろ?」

「……むぅ」


 クゥナは頬を膨らませてそっぽを向く。

 その通りでございますって言ってるようなモンですよ、その反応は。


「だがざーんねーんでしたー! おまえは今メルたんから言われた通り、『エインフェル』の規約違反容疑でダンジョンには入れませーん! そして俺もそんな風に扱われてまでヴァイスを探すつもりなんてありませーん!」

「むーむー!」

「メルたんではありませんが、ここは依頼という形にするのはいかがでしょうか」


 言い出したのはメルだった。


「メルたん、どゆこと」

「メルたんではありませんが、言葉通りです」

「依頼にするって。ヴァイス達の探索を、かよ?」

「そういうことですね。これについては禁じられておりませんので」


 なーるほど。まぁ、そういうことだったら話は変わってくるかね。


「いいのか、グレイ」

「ラン、俺ら冒険者よ? ちゃんと報酬が出るなら、そりゃ受けることもあるっしょ」

「ほ、報酬なんて、そんな……」


 おー、困っとる困っとる。

 まぁ、金がないのは噂にゃ聞いてるけど。蘇生費用って高いらしいしなー。


「お金なんてないのよ! 本当なのよ、払えるものなんて何も……!」

「本当か? マジでなーんにもないのか?」

「うう……、あっても拠点のハウスくらいしか……」

「あるじゃん」

「え゛」

「あるじゃん。ハウス。街の一等地にある、あのデカイ拠点」

「待ってなの! そんなの報酬にしたら、クゥがヴァイスにーちゃんにものすっごく怒られちゃうのよ!」

「このままだと、そのヴァイスにーちゃんも戻ってこないけどな」

「う」

「見殺しにするか、生還後に叱られるか。どっちがいいよ?」

「うううううう~……!」


 ああ、聞くまでもないことだよな。

 だが判断するのは俺じゃない。おまえだよ、クゥナ。


 これ以上は何も言わない。俺はただ、彼女の反応を待った。

 すると数秒ほどしてからクゥナが弱々しく俺の腕を掴んできた。


「依頼、するから。だからヴァイスにーちゃんを助けてなのよ……」


 はいよ、毎度ありー。

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