第26話 天才重戦士、やる気を漲らせる
なるほどね。
度重なる挑戦と繰り返された敗北が、“魔黒兵団”に経験値という糧を与えちまった、と。
何やってんだよ、あいつらは。
『エインフェル』はAランク最強のパーティーじゃなかったのか。情けねぇ。
「いいぜ、受けるよウル。俺達が“魔黒兵団”を叩き潰してやる」
「そうかそうか。おんしらであれば安心して任せられるわい」
「ところでそのまま“大地の深淵”を攻略してもいいッスか?」
「あっれ~、おんし、Aランクじゃったっけ?」
ガッデム!!!!
「そこは目こぼししてくれたっていいだろうが! 街の救世主様になるんだぞー!」
「報酬はがっつり払うと言ったじゃろうが!」
「ンだよー! いじわるー! チビロリー! ウルラシオンの深き闇ー!」
「ええい、騒ぐでないわ、貧弱重戦士め!」
千載一遇の“英雄位”チャレンジチャンスだと思ったのにー! もー!
「ま~ったく、しょうもない。……しかし、坊よ」
「なーによー、今、グレイさんはインフィニットハートブレイク中だよ!」
「おんし、何故この依頼を受けようと思った?」
「ンあ~?」
急に何聞いてくるんだ、このチビロリ。
「おんしの幼馴染共の尻ぬぐいでもしようというハラかぇ?」
「ざっけんな。そんなんじゃねーよ」
「ほぉ、だったら理由を聞いていいかの」
「大した理由じゃねーぞ」
「構わんよ」
俺はランを見る。
「ランはスゲェよな」
「な、何だよいきなり……!?」
「ランは最強だ。スゲェ強ェ。人型のゴリラの形をしたドラゴンみたいな女だ。それくらい強ェよ」
「なぁ、グレイ。褒めてるのか? それ褒めてるのか、なぁ?」
どう聞いたって褒めてるだろうが。
何言ってんだ、このゴリラドラゴン女は。思いながら俺は次に、アムを見た。
「アムもスゲェよ」
「え、え……?」
「ダンジョンで脱ぐとか並の神経でできることじゃねぇし、盗賊いらずとか本当に意味わかンねーよ。それにえっちだし、脱ぐし、黒のレースだし」
「は、はぅぅ……、そんな、え、えっちじゃないもん……!」
いや、えっちだよ?
盗賊いらずのまっぱのマッパーだよ? 自覚ないの? ヤバくない?
そして最後に、パニを見る。
「パニだって、スゲェしな」
「そうかよ?」
「ああ。だって魔法少女とかあんなノリでやられたら誰だって腹筋が滅亡するだろ。それに花びら、甘いし美味いし疲れなくなるしな!」
「ギャハハハハハハハ! 褒められてると思っておいてやるぜ!」
え、褒めてるよ。それ以外にどう聞こえたんだよ、おまえは。
「ま、とにかく三人ともスゲェってこったよ。心の底からそう思うぜ」
「ほぉ、それで?」
「俺だけだ」
「む?」
「俺だけが、こいつらにまだ俺のスゲェところを見せちゃいねぇ」
俺は壁役だ。
モンスターからこいつらを守る、最前線、最前衛の回避タンクだ。
だが俺は、こいつらと組んで以降、その役割をまるっきり果たせちゃいない。
「だからよ、見せつけてやんなきゃいけねぇだろうが。ランに、アムに、パニにも。おまえらが組んだグレイ・メルタは、最速無敵の天才重戦士なんだぞってトコをよォ」
俺はウルに向かって強気に勝気に笑って見せた。
「グレイ、おまえ……」
ランが俺を呼ぶが、ちょっと気恥しくなってるのでそっちは向かない。
「なるほどのぅ」
ウルは感じ入ったように、深くうなずいた。
「つまり、おなごの前でええカッコしたいだけじゃな」
「ねぇ、せっかくカッコよくキメたのにその一言で全部台無しなんだけど、ねぇ?」
まぁ、間違ってないけどさ! 実際その通りだけどさ!
だって三人とも可愛いじゃん! いいところ見せたくもなるじゃん!
「クッヒッヒ、分かった分かった。よく分かったぞぇ」
「おまえホンット、そのうち決着つけてやるからなチビロリ」
幼女フェイスに浮かぶ笑みの生ぬるいこと生ぬるいこと!
っかー! ムカつくー! 依頼人だから無碍に扱えないのが余計腹立つー!
「ふむ、そうか……」
なんてことを思っていると、何だ、ウルは天井を見て考え事をし始めた。
こいつ、割としょっちゅう物思いにふけるよなー。老衰かな?
「坊、あとでお仕置き」
「心読まないで!?」
「顔に出ておる」
「おまえこっち向いてないじゃんかよォォォォォ!」
俺が悲痛な叫びをあげると、ウルは「うむ」と小さくつぶやいて俺を見る。
「……何スか?」
「少しばかり悩んだがの、最後にもう一つだけ話してやろうと思ってな」
反射的に身構えた俺に、この千年妖怪はそんなことを言ってきた。
話って、まだ何か俺に話すことがあるってのか?
「この話を聞いて、おんしがどんな判断を下すかはわしも分からん。だが、いずれどうしたところでおんしは知ることになるであろう話。ならば今この場で教えてやるのもよいかと思ってな」
「思わせぶりじゃねーの……。一体、どんな話よ」
「うむ、それはの――」
そして、ウルから聞かされた話に、俺は言葉を失った。
冗談じゃねぇ。
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