第22話 天才重戦士、呆れ果てる
問題になっている二名が生き返れない理由がそれなら、俺の疑問は至極真っ当なはずだ。
しかし、尋ねた俺に対してウォーレンが向けてきたのは怒りのまなざし。
「何だ、結局おまえも『エインフェル』の味方なのか!」
「論点ちっげェェェェ~~~~……」
的外れすぎるその返答に、俺は思わず「あ?」と返してしまった。
敵だ味方だとか、誰がいつそんな話をしたのよ。
「そうなのよ! グレイにーちゃんはクゥの味方なのよ!」
「おまえもおまえで乗っかってんじゃねーよ!」
こんなん繰り返してたら、そりゃ話にならんわ!
「やはりこんな席での話は不毛だ!」
「そうだ、どうせギルドだって『エインフェル』の味方に決まってる!」
「だが屈しないぞ、『千里飛翔の鷹』をなめるなよ!」
Bランク三人が、ちょっと理解できない方向でエキサイトしはじめた。
何だこいつら、被害者意識が千里飛翔か???
まぁ、このままではちょっとお話にならないので、俺はランに目配せした。
「せい」
ズドバキャアッッッ!!!!
おもむろに振るわれたランのチョップが、分厚い木のテーブルを叩き割った。
音が轟き、そして静寂。
Bランク三人もクゥナも、顔を真っ青にして固まっている。
「会話、しよーぜ?」
「「「「あ、はい」」」」
後にランを従えて俺がにこやかに笑うと、全員が快く承諾してくれた。
すなおってびとくだよねーかっこぼうよみかっことじ。
「でさ? 結局蘇生資格とってないのがあかんワケじゃん?」
「そんなことはない!」
俺の言葉を、ウォーレンが否定しようとする。
だが心なしか声の調子がさっきより弱い。もしやこれは――
「もしかしておまえら、自覚あったりしねぇ?」
「な、何の話だ……!」
「グランツとかが死んだ件、その本当の責任は、死んだ本人にあるってこと」
「…………ッ!」
俺の指摘に、声もないまま三人は小さく身じろぎした。
何だよ、自覚あるんじゃねぇか。
「まぁ、そうだよなぁ。そりゃあ自覚なきゃおかしいよな」
「な、どういうことなのよ……」
「冒険者は自己責任。それが原則だっつー話よ」
英雄になるための唯一の道だから勘違いされる面もあるが――
冒険者なんてのは結局ヤクザな商売でしかない。
危険は常に身近にあり、いつだって死と隣り合わせ。
とてもじゃないが立派な職業とはいえず、ゴロツキ・チンピラと変わらない。
だから当然、自分の身の保証なんてありゃしない。
自分の命を守るのは、自分でしかありえない。冒険者の大前提である。
「Bランクだったんだろ? 蘇生資格くらい取っておくモンだろ」
蘇生資格の取得は別に義務じゃないが、自分の生死に直結する話だ。
冒険者であれば、誰しもが蘇生資格の取得は考える。
Cランク以上になれば受験資格は満たせるしな。
まぁ、俺はレベル低すぎて一回も受験できてないワケなんですけどね?
フハハハハハハハハ――――、ハァ……。
しかしなー、何かちょっとなー、何なんだろーなー、この違和感。
「グレイとか言ったな」
「おう。何じゃい」」
「おまえは、グランツ達が蘇生資格を取っていなかったことを責めるのか」
は?
「グランツ達の怠慢だとでも言うつもりか!」
え?
「一方的な物言いだな。やっぱり『エインフェル』の味方か」
ちょいちょいちょーい?
「待って待って、誰もそんなこと言ってないよね?」
「言ったじゃないか! 今! グランツが蘇生資格を取得してないのが悪いと!」
「悪いとか言ってねーし。テメェの死の責任を他に押し付けんなっつったの」
「同じことだ、俺達の仲間を悪者にしやがって!」
あ~~~~~~ん?
何かおかしいぞう。
何だろうな、さっきからこいつら、自分から水掛け論に突入してねーか?
「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
突然。
パニが大きな声を出して笑いだした。何だァ?
「あー、腹痛ェ。ああ、こりゃあダメだ。面白すぎンぜ、グレイの旦那よォ」
「何だ何だ、何だってのよ」
「ああ、簡単な話さ。こいつら――」
パニは不敵な笑みをそのままに、『千里飛翔の鷹』の三人をねめつける。
「全部分かってやってるぜ」
「……あー。そゆこと」
言われて、俺も得心がいった。
そうかそうか、だったら堂々巡りも望むところだわな。
「何なのよ。全然わかんないのよ!」
「おまえ、ホント誰かに頼るの大好きだよなー」
少しは自分で考えなさいよ、このクソ『エインフェル』は。
「要するにこいつら、おまえを脅して自分の思うようにしたいだけよ」
「な、なんだってー! なのよ!」
振り返ってみればなるほど、分かりやすいわ。
クゥナに対して言うのは「おまえが悪い」、「責任を取れ」ばっかり。
自分に都合の悪いことを指摘されたら論点をズラしてはぐらかす。
それでも追及されれば、自分の正義を声高に主張して勢いでごまかそうとしたり。
ハハ、何だよくだらねぇ。
オイオイ、マジで勘弁してくれよ。おまえら曲がりなりにもBランクだろ?
「なぁ、もうこれくらいにしておいた方がいいんじゃねぇの?」
「な、何かだ!」
「これ以上ゴネたっておまえらにとっちゃ不利な結果にしかならんぜ」
言って、俺はメルとロクさんの方へと視線を送った。
ここまで、一切口を出すことなくことの成り行きを見守っていた二人。
冒険者ギルドの受付ロビーで起きた騒ぎだから、この二人もいるんだろうが。
「目立つ場所で騒げば自分達の方に同情が集まるとでも思ったンか?」
「そ、そんなことは……!」
「もういいよ。どうせおまえらの思い通りにゃならんて」
明らかに狼狽しているウォーレン達を、俺は軽く突き放した。
本当に、心底から、別にクゥナの味方をするつもりなんてないが、だが――
「それよりおまえら、自分の仲間の死を利用しようとしたな?」
俺が許せないのはそこだった。
散々、仲間の死を悼むようなことを言っておきながら、実際は真逆。
よりによってこいつらは、仲間の死を人に金をせびるための口実にしやがった。
「……失せろよ。この話は終わりだ」
「何を、まだ俺達は――」
「失せろって。これ以上は赤っ恥だぜ?」
俺はウォーレンを睨む。
瞬きをせずに、まっすぐに、貫くように、殺すように、目の前のクソ野郎を睨む。
「ぐ……」
「お、おい、ウォーレン」
「行くぞ。拠点に戻るぞ!」
「あ、ああ……」
三人は椅子を揺らして立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。
「このままで済むと思うなよ、こっちにはザレックさんがついてるんだ!」
去り際のウォーレンのセリフ。
まるっきり三下悪役の捨て台詞じゃねぇか。ダッセェな……。
「ロクさん、あいつらは――」
「はて、あいつらとは一体どのあいつらのことなのか。あたくし、とんと分かりませんな。そもそも冒険者ギルドは全ての冒険者に対して公明正大、公平中立! あらゆる面において平等でございます! 仮に、仮に! かーりーに! もしも何か冒険者同士でいさかいなどがありましても、ギルドがどちらか一方に加担するなどといった愚は決して犯すことはございません! ご安心ください!」
長い。相変わらず長い。セリフが長い。
だがギルド長がそう言うなら安心か。この一件はなかったことになりました、と。
「終わったぜ、クゥナ」
「よくやってくれたのよ、褒めてあげるのよ!」
何で終わった途端に上から目線なの、こいつ?
「クゥを助けたことを誇りに思うといいのよ。やったねグレイにーちゃん!」
「ふざけるな」
おっと。
俺が言う前に、ランが立ち上がっていた。
「な……、誰なのよ」
「僕の名前なんてどうでもいい。それより、助けてもらってその態度なのか」
「べ、別にクゥは悪くないんだから! 助けられて当たり前なのよ!」
わーお、それ言い切っちゃいますか。
うんうん、それでこそ『エインフェル』ですね。くそったれ。
「この――」
「いいよ、ラン」
「グレイ! でも……!」
「いいって。それより、怒ってくれてありがとよ」
俺にゃそっちの方が嬉しいってモンだわ。
言うと、ランは唇を尖らせてそっぽを向いた。そして座り直す。
もしかしてこの黒女、照れてらっしゃるのかな?
「なぁ、クゥナ」
「何よ。まだ何かあるのよー?」
「おまえも悪いからな」
「え……」
当然だろうが。
「一時でしかなくても、仲間だろ。見殺しにしていい理由があるか?」
「う……」
「知ってるなら教えてくれよ。少なくとも、俺は知らねぇよ」
「それは……」
「Aランクだろうと関係ねぇぞ、俺達はたかが冒険者風情なんだからな」
ヴァイスなんかは、そこら辺から勘違いしてそうだけど。
俺達は冒険者。ただの冒険者なんだから。
他人の命をどうこうする権利なんて、あるワケねーんだよなー。
分かってんのかね、このガキッ娘は。
「……だったら」
「あン?」
「だったら何だってゆーのよ! もー! もぉぉぉぉぉぉぉ!」
うおお!?
いきなり両腕振り回して暴れてんじゃねぇぞ!
「ヴァイスにーちゃんもリオラねーちゃんもいなくなって、それで、それで、あんなヤツらに絡まれて、クゥだけでどうしろってゆーのよ! もー知らないのよー!」
あァン? ヴァイスとリオラがいなくなっただとぉ?
「おい、クゥナ……」
「知らない知らない! 知らない! もー何も知らないんだからなのよー!」
あ、行っちゃった。
「お、追わないでいいの……?」
「ほっとこ」
アムが俺にきいてくるが、追いついてもどうせまた暴れるだけでしょ。
いやー、それもしても結局お礼も謝罪もなしに終わったね。
スゲーや、やっぱ『エインフェル』ってクソだわ!
改めて再確認できたよ、よかったねグレイ君!
ガッデム!!!!
「いや~~~~、骨折り損だわ~~~~」
そりゃチビロリにも不器用言われるわなー。アッハッハッハ。
……ちょー疲れた。
「次、同じようなことがあったらどうするんだ?」
「もーやだ。もー助けない!」
人にありがとうも言えない子なんてもう知りません!
「オラ、チビロリ賢者。終わったぞ、コラ」
ここまで一回も口出ししてこなかったウルの方へ、俺は視線を流した。
こいつ、結局最後までヤジ馬貫きやがった。
いくら伝説の冒険者だ、ウルラシオンの大賢者だっつってもなぁ。
今回ばっかは、いい印象ないぞ。俺。
「…………」
だが、俺が見るとウルはやけに神妙な面持ちで何事か考えているようだった。
何だァ? 今の話に、どっか悩むようなところあったっけ?
「おい、ウル」
「む? おお。終わったのかぇ、坊。お疲れさんじゃよ」
何だよ、やじ馬ですらなかったのかよ。
じゃあ何でこの場にいたんだよ、おまえ。……モヤっとするわぁ。
「おまえ、今の話を見てすらいないとか、何してたのよ」
「うむ……、ちょいとな」
そのちょいとが何なのかって聞いてんですけどねぇ?
「メル、ロックラド、おんしらはどう思う」
と、急にウルがロクさん達に話を促した。
「私は、あやういかと思っています」
「そうでございますねぇ。あたくしも同様ですね。ウル様のご懸念通りかと」
三人が何かを話し合っている。
しかし、俺にはさっぱり、その話の内容が見えない。
こいつら、一体何の話をしてんだ?
「坊よ」
「ンだよ」
「おんしらに依頼をすることになるかもしれん」
いよいよ話が見えねぇな。何だってんだ?
だがともかく、依頼にありつけるってんならそれに越したことはない。
「どんな依頼だよ」
「うむ――」
ウルラシオンの大賢者は、一切遊びのない真顔で言ってきた。
「“大地の深淵”に向かってもらいたい」
――――あ?
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