十一の月と六日目
宮廷料理人 クルーム・アラバルン
今朝、調理場に新しい食材が届いた。わが国では、食材の流通も盛んな上、新しい野菜や果物、調味料などが次々と開発されている。老体の私は、追いつくのに必死だ。
さて、今回届いたものは、海魚が数匹、開発されたばかりのソース、東の国から届いた香辛料、そして、品種改良によって指でつまめるほどの大きさのキャベツだった。
このキャベツは、芽キャベツという。持ってきてくれた農家の青年から、実っている所の写真を見せてもらったが、太い茎にびっしりとこのキャベツが実っていて、とても驚いた。
小さくても、きちんとキャベツの味がする。いや、キャベツよりも、葉が詰まっていて、歯ごたえが良い。これは、出来る限りこのままの形で使いたいなと、他の料理人たちと話した。
いくつか、試作品も作ってみた。予想通り、鶏がらのスープとの相性が良い。弟子のバベッズ君の作った、トマトソース煮込みも旨かった。
今回は試せなかったが、シチューやチーズなど、牛乳製品を使った料理も出来そうだ。新たな食材に、私も料理人たちも、ほくほくとした笑顔である。
明日の朝食に、早速芽キャベツの料理を出そうと思う。
ノシェ様、楽しみにしておいてください。
おわり
***
メモ
私は、毎日新しい料理を食べないと、頭が満足しないので、宮廷料理人の皆さんには、大変な負担をかけていると思う。
クルームさんは、城の使用人の中で、執事長のマイルニさんの次の年長者だ。いろんな国の料理を作ってくれて、新しい食材も果敢に挑戦している。
その試行錯誤の様子を、クルームさんは日記に書いてくれる。これを読むと、私はおなかが空いてきてしまう。
芽キャベツのことは、以前の研究発表会で、遺伝子構造や育て方とかを教えてもらえた。あの時は、まだ実っていなかったから食べられなかったけれど、いよいよ口に出来る日が来たんだ。早く朝になってほしい。
……ところで、色々探してみたけれど、リーを見つけた人はいないみたいだった。
リーは寒かったり、ひもじかったり、そんな辛い思いをしていないかな? トーチくんほどじゃないけれど、私も不安な気持ちになる。明日には見つかってほしい。
ノシェ
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