Day3 かぼちゃ
約一ヶ月程度過ごす部屋に荷物をあらかた運び終わって、俺はやっとベッドに腰を下ろした。
ん。さて、これからだな。
梱包を開けて、部屋に先に組み立ててもらっている棚に並べるだけだが。
あのメンツの中で1番図体のでかいこの俺が暮らすにゃあちと手狭だが、これでも1番広い部屋を譲ってもらったんだ。マイトとクラウンには少し窮屈かもしれないが、フィールドワークの時にでも、その鬱憤を発揮してもらうとしようか。
「どもー、失礼しまーす」
軽いノックの音がして、女性が部屋に入ってきた。
清潔感のあるシャツに薄い色のエプロンをつけた彼女は、肩までの髪を短いながらに後ろで縛っていた。シャツの袖も肘ほどでしばっていた。
「ビーストテイマーのルスグレロケベロスさんですよね。はじめまして。私の名前はタイム・ノスタルジア。水の都ジア・リアで料理人をしています。お気軽に『タイムさん』とお呼びくださいな」
行儀良くお辞儀をされたので、俺は短く「おう」と返事をした。
「ビーストテイマーっつーのは大げさだな。俺は犬族専門のテイマーだ。それで、何か用かい? タイムさんよ」
「その犬族専門の力を是非お貸しいただきたいんです」
タイムさんは俺の半分くらいの背だけで、そのさらに半分くらいの、彼女の背丈にしては大きいカゴを持ってきた。そのカゴには大小たくさんかぼちゃが入っていた。
「実は近くの森に、高品質の魔かぼちゃが群生していまして、この城に運ぶのを手伝って欲しいんです。私の小さな手じゃあ、これだけ運ぶのに一苦労なんです」
「なるほどな、了解した」
「ご準備できたら厨房の方へ来ていただけますか? 群生場所をお教えいたしますので」
「いや、ちょっとそのかぼちゃひとつくれねぇか?」
「? いいですよ」
彼女はカゴごとこちらによっこいと寄越した。
「犬族テイマーの中じゃあ当然なんだが、位置把握は座標じゃなくて嗅覚を使うんだよ。味覚も少しな。マイト、出番だぜ」
マイトは彼女の2倍以上の大きさのグランドウルフ。攻撃力は他の犬族と比べものにならないが知能もまた抜群だ。この程度の調査は朝飯前だ。
「マシラムさんが言っていたんですけど、この辺の土って魔養分がたんまり含まれるんですって。やっぱり魔王城近辺の森はひと味違うわ~。まだ見ぬ食材のヨ・カ・ン♪」
くるくるとその場で小躍りをする彼女を横目に、俺は感心した。
「マシラムって、魔法の養蚕家『虹色のマシラム』だろ? 城門の前ですれ違った時に肩に乗せてた幼虫、ああいう虫属を飼っているテイマーみたいなもんかと思っていたんだが、土の養分なんかも詳しいんだな」
「そこはそれ、グレロさんもお詳しいでしょう? 虫さんの餌は葉っぱですから、マシラムさんは薬草作りも専門なんです。マイトくんたちの餌だって、きっといろいろお調べになっているんじゃ無いですか?」
「なるほどな、確かに。栄養面はもちろん筋繊維への影響、種族の系統進化、個体の成長、環境への適応力、全国各地の魔物肉等はアンテナ張ってるわな」
「あはは。私もそういう話、とても興味があるので今度お話ししましょ~」
別大陸の料理人と情報交換できるのは良い機会だな。
そのときにカゴが「バンッ」と鋭い音と共に吹っ飛んだ。
マイトめ、飯を食うときほど静かに食えと教えているってのに。
……と思ったら、かぼちゃのカゴの中に見覚えのある顔がいた。
マシラムがつれていた希少種の幼虫だった。
甘噛みではあるが、歯形のようなものがついていた。
「マイト!!」
くぅ~ん、と反省したような顔をしてマイトが走り寄ってきた。
「あらあら! かぼちゃのカゴでお昼寝していたのね……、かぼちゃと色が似てるから……」
その幼虫の身体の色は、オレンジ色と緑色が混ざり合っていた。ちょうど色が変わりかけていたかぼちゃと瓜二つだった。
「ちょっと手当てしてきます! グレロさんは悪くないって言っておきますから! ……マイトくんもね!!」
彼女は幼虫を抱きかかえて部屋を出て行った。
まるで嵐が通り過ぎたかのような慌ただしさだった。
マシラム……、彼女にも悪いことをした。
あとで謝りに行くとするか。
部屋に転がったままの、その禍々しく大きく成長したかぼちゃを見て、明日からのフィールドワークへの手応えを感じた。
完
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