03:設定変更を反映しつつ、読み込ませる文量は同じ(ふたたび)

使

 

 

 

 

   

 

  姿



 

 


不意に、彼女が立ち止まった。つられて、私も足を止めた。

「どうしたの?」

「…………」

彼女は答えない。ただ黙って、じっと前方を見つめていた。

「あそこに、何かあるの?」

私は、彼女の視線を追いかけた。

そこには、一本の木が生えていた。

木は、幹から枝まで真っ赤に染まっていた。葉っぱ一枚ついていない。

「あれはね、桜っていうのよ」

彼女が教えてくれた。

「サクラ? ああ、これが」

「この木は、ずっと前に枯れちゃったんだって」

「どうして?」

「病気になったらしいわ」

「ふぅん…………」

私は花を一輪摘んで、匂いを嗅いだ。花の香りが鼻腔を満たした。

彼女は別の一輪を摘むと、手の中でくるくる回して弄んでいた。

「ねえ、覚えてる?」

彼女が唐突に言った。

「何を?」

「昔、ここで一緒に遊ばなかった?」

「覚えてない」

「そっか…………」

彼女は寂しそうな顔をしていた。そんな表情をされると、私が悪いことをしてしまったような気分になる。

「ごめんなさい」

「いいのよ。忘れてても仕方ないもの」

彼女はそう言って、笑顔を浮かべた。

それから二人は、しばらく花畑を眺めて過ごした。

「きれい」

「うん」

「こんなところがあったなんて知らなかったわ」

「私も」

「不思議よね。だってここは、もう何年も前から誰も来なくなってるのよ?」

「へぇ」

「噂によると、あの桜はここにあるんだって」

「桜?」

「そう。満開になると、すごく綺麗なんだって」

「へえ」

「でも、今は咲いてないみたいね」

「残念だった?」

「うーん…………」

彼女は少し考えて、「まぁ、いっか」と言った。

「ちょっと来て」

彼女は私の手を引いて、どんどん先へ進んでいく。私は足取りを合わせて、彼女の後を追う。

やがて、開けた場所にたどり着いた。

「すごいでしょ!」

彼女は得意げに言うと、私に背を向けてしゃがみ込んだ。

「ほら、見て。この花、全部同じ色に見えるでしょう?」

「うん」

「でも、よく見ると違うの。一つだけ、赤色じゃないのがあるでしょ?」

「どれ?」

「これ」

「本当だ。何が違うの?」

「茎の先に、白い毛がたくさんついてるでしょ? これは、花粉を運ぶためのものなのよ。だから、花が咲く前についたものなの」

「へぇ」

「他にも、ここを見て」

彼女はそう言って、一株のアネモネを指差す。

「根っこが土から出てるでしょう? でも、他のは出てないの」

「なんでだろう?」

「ここにね、水をあげるの。そうしたら、また土の中に戻っちゃうのよ」

「へぇ」

「不思議でしょ?」

「うん」

「でも、それだけじゃないのよ。もっと不思議なことがあるの」

「どんなこと?」

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