02:設定変更を反映しつつ、読み込ませる文量は同じ

使

 

 

 

 

   

 

  姿



 

 


林を抜けて開けた場所に辿り着いた時、彼女から手を離された。

彼女はその場にしゃがみこんで、土を掘り始めた。

何をしているのか尋ねると、「埋めてるのよ」という答えが返ってきた。

「誰を埋めているんだ」

「思い出」

「どんな思い出だ」「秘密」

「そうか」

「知りたい?」

「いいや」

「どうして?」

「お前が教えたくないなら、それで良い」

「…………そうね」

私はそこで、彼女への恋愛感情を自覚した。

しかしそれを彼女に告げることはしなかった。私は今の関係に満足していたし、彼女がそれを望んでいるように思えたからだ。その日の夜、彼女は自殺した。遺書には「ごめんなさい」という言葉だけが綴られていた。

私はその時、初めて涙を流した。

それからずっと、後悔を抱えて生きている。

私:『一年前から』

私:『君と出会った頃から、君のことが好きだ』

私:『今も変わらずに』

私:『君のことが好きだった』

彼女は泣きそうな笑顔を浮かべた。

「ありがとう。嬉しいわ」

彼女はそう言って、私を抱き締めた。

私はその時、彼女と心中しても良いと思った。

私:『今でも君は綺麗だよ』

私:『私が死んだら、この花を墓標にしてくれないか?』

彼女:「えぇ、もちろんよ」

彼女:「私もあなたを愛しているもの」

彼女:「あなたと一緒に死ねるなんて、幸せ」

彼女:「あなたのことを、一生忘れない」

彼女:「だから、あなたも私のことを忘れないで」

彼女:「私を好きになってくれて、ありがとう」

私はこの時、彼女を美しいと思った。

彼女は自殺をした。

私はその時、彼女を救えなかった自分を責めた。

彼女の亡骸は、アネモネの花に包まれていた。

私はその時、彼女を殺した自分を憎んだ。

彼女は死んでしまった。

私はその時、彼女を失ったことを嘆いた。

私はその時、彼女と心中することを望んだ。

私はその時、彼女と心中することを願った。

私はその時、彼女と共に死ぬことを望まなかった。

彼女は死んだ。

私を残して。

私:『今はもう』

私:『いない』

私:『彼女はもう、どこにもいない』

私:『この世のどこを探しても、見つからない』

私:『彼女は私を置いて、逝ってしまったから』

私:『あの日、野花の咲く野原で、私と彼女は心中しようとした』

私:『彼女の死体が、アネモネの花に埋もれて眠っていた』

私:『私だけが、残されてしまった』

私:『私は今も、彼女の墓標に花を咲かせている』

私:『彼女はもう、ここにはいないのに』

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