水溜りの向こう

@Numabon315

第1話 非/日常

 いつも通りの平日の朝6時00分、ベッドの近くの目覚まし時計が鳴る。この世で最も不快な労働の時間へ誘う知らせだ。

俺は辛うじて起床し、重い体を何とか持ち上げた。気が進まないが、朝食を摂りスーツに着替えて、身も心も引き締めた。

 俺の名前は山田神事。28歳のどこにでもいるごく普通のサラリーマンだ。毎日夜遅くまで残業に追われ、ほぼ仕事と家を行き来して終わっている。普通に生活できるくらいには稼いでいるが、これといって特に趣味もなく、ただ同じ繰り返しのつまらない毎日を過ごしている。

 こうして俺はいつものように会社へ向かった。今日は天候がかなり荒れており、中々歩き辛い。このままだと会社にギリギリの時間帯に着いてしまう。急いで走っているその時、先行く道に深い水溜りがあった。俺はスーツがビショビショに濡れることを一瞬心配したが、そんなことはお構いなくがむしゃらに走った。

 水溜りを踏んだ直後、なんと俺は今までに体験したことのない深い落とし穴にハマった。何とか必死に地上に這い上がろうとしたが、その努力も虚しく、そのままズルズルと引きずり込まれてしまった。俺はあまりのショックで一時気絶状態だったが、すぐに目を覚ました。

 周囲はどこか見たことのある光景だった。かなり急いでいたことから走っている最中に、頭をどこかにぶつけて変な夢でも見ていたのかと思った。だがよく見ると人が全くおらず、物静かだ。まるで核戦争後の世界のように静かさに満ち溢れている。

 このままじっとしていても何も始まらない。俺はゆっくり歩き出した。もう会社のことなどどうでも良かった。今はひたすら俺がどんな世界に放り出されたか、真相を解明する方が優先順位はずっと高かったのだ。今のところ人影もなく、ビルしか見当たらない。

 歩いている背後に何か気配を感じる。後ろを振り向いたその直後…

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