きょうを読むひと
長月瓦礫
文字列を咥える鳥
正午を過ぎたくらいだろうか、サシャの腹の虫が鳴いた。
頭上には透き通るような青空が広がっている。
今日も魔界はいい天気だ。
通りから独特なにおいが立ち上り、様々な人々が行きかっている。
サシャはしゃがみ込み、人混みをじいっと観察していた。
バサバサの髪に薄汚れた服、誰がどう見ても貧民のそれだった。
家族の顔も知らないまま、ここに流れ着いた。
自分のことを何も知らないまま、今日まで生きてきた。
彼女は吉凶の凶の方を読む力に優れていた。
その日のうちに降りかかる災いが見えてしまうのだ。
サシャと同じように異国から来た人が多いからか、きょうを読む人と呼ばれていた。
いつのまにか、よく当たる占い師として知られていた。
一口に災いと言っても様々な種類がある。
火にまつわる物は火事が起きる。
細かい粒子が飛んでいれば、病気にかかる。
ほんの少し先の未来が見えてしまう。
無視することもできないので、なるべく忠告している。しかし、悪いことばかりを言われると余計に腹が立つらしい。
気味悪がられ、避けられていた。
それでも、彼女の言葉を信じ、難を逃れた人は必ずお礼をしてくれた。
ほんのわずかの恵みでどうにか生活できている。
「文字に、鳥?」
文字列を加えた鳥が目の前を横切った女性の頭上を回っていた。
旋回している鳥は誰かに物を送ったことを表し、文字列は手紙を示している。
「あの、すみません」
「ん? どうしたの?」
明るい茶髪に作業服の彼女は振り返った。
変なことを言って怒らせないように、丁寧に接しなければならない。
「何か手紙とか出しませんでしたか?」
「手紙? 何で分かったの?」
「鳥があなたの頭の上を回ってるので……もしかしたら、手紙が戻ってくるかもしれません」
心当たりがあるのか、すぐに顔が青くなった。
「アベル! こんなところで何をしているのですか!」
彼女の肩が大きく跳ねた。
つかつかと大股で歩いて来た女性も似たような服を着ており、金髪を綺麗にまとめている。
片手には何か紙切れを持っている。
「手紙が戻って来ましたよ!
住所をよく確認しろと、何度言わせれば気が済むのですか!」
「……これが不幸?」
「多分。鳥が消えたので、そうだと思います」
災いが起きると、今まで見えていたものが消える。
二人で顔を見合わせ、アベルと呼ばれた女性は不思議そうに首をかしげた。
「何の話ですか?」
「別に、何でもない。
今度、炊き出しやるから。よかったら来てね!」
手を振って走りながら帰って行った。
災いがいつ来るかは分からない。
なるべく小さく、早めに終われば終わるほどいい。
残り少ない恵みを握りしめ、出店へ向かった。
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