パンドラの薬
岸亜里沙
パンドラの薬
少し前の事です。
薬学部に通う友達の
深夜に突然電話が鳴り、出てみるとハイテンションな彼女の声が聞こえてきました。
「
「久しぶりね。どうしたのこんな時間に?」
「ううん、ただ急に話しがしたくなって。。。」
「何?どうかしたの?」
「ねえ、琴音。もしさ、癌とか、あらゆる病気に効く薬があったら、琴音はどう思う?」
「え?急にどうしたの?まあでも、そうね、それこそノーベル賞物の発明じゃない!みんなの病気が治る薬でしょ?」
「確かに、魔法のような話しよね。。。」
「うん。将来そんな薬が開発されればいいなって思うけど」
「実はもうとっくに開発されてるのよ!」
「え?嘘?」
「開発されてるけど、使われる事は無いわ。。。」
「どうして?リスクがあるからって事?」
「利権の為よ!!」
「どういう事?」
「だってそんな薬を使えば、医者が儲からないじゃない!」
「え?」
「身近な病気で言えば、風邪とかがそう。琴音は風邪の治りが悪くて病院に何度も行った事は無い?」
「確かにあるけど」
「それが狙いよ。何度も通院させる為に、敢えて効き目の弱い薬しか処方しないの。そしてまた追加の薬を患者に買わせる訳。。。」
「本当なの?」
「もっと言えば花粉症の薬だってそう。本当なら一回飲めば、アレルギー反応を抑えてくれる薬だって存在するの。だけどそんな薬を売り出したら、花粉症の時期に鼻炎薬で儲けてた製薬会社が破産しちゃうじゃない!」
「それはそうだけど」
「利己主義な部分が多いのよ。医学界も薬学界もね。。。」
そう言い終わると明菜は深い溜め息を吐き、無言になりました。
電話越しでも気になったけど、明菜らしからぬ抑揚をつけた話し方に違和感を覚えました。
「ねえ、明菜、今、お酒飲んでるの?」
「ううん、ただ気分がハイになってるだけ」
「それだけならいいけど。なんかいつもの明菜っぽくなかったから」
「ふふふ。そうかもね。ねえ、琴音。合法ドラッグ試した事ある?」
「何?急に?」
「琴音も一度は試した事あるわよ」
「何それ?そんなの試した事無いわよ!」
「咳止め薬よ」
「え?」
「市販の咳止め薬や風邪薬の中にはジヒドロコデインリン酸塩っていう、麻薬に似た成分が入っているのがあるの」
「何それ?」
「用法用量を守って使う分には問題無いけど、この成分を大量に摂取すると麻薬みたいに気分がハイになる効果があるのよ」
「明菜、まさか濫用してるの?」
「処方薬は医師や薬剤師によって管理されてるから難しいけど、市販薬は手に入りやすいし、ストレス発散にはもってこいなの!」
「そんな事しないで!」
「もう止められないのよ。ドラッグストアでもこの成分が入っている薬は、基本ひとつしか買えないけど、あちこちのドラッグストアを回れば簡単に手に入っちゃうから。。。」
「そんな」
「ああ、琴音、だんだん眠くなってきたわ。もう切るね。。。」
「ねえ、明菜、ねえ!」
そして電話は切れてしまいました。
その数日後に、警察の人が私の家を訪ねてきて、薬の過剰摂取により明菜が自宅の寝室で亡くなっていた事を知りました。
死亡推定時刻の直前に私と電話していた事もあり、事情を聞きにきたようです。
電話の一部始終を伝えると、警察の人は帰っていきました。
聞いた話によると、明菜の部屋には空になった市販の咳止め薬が大量に散乱していたそうです。
この話を公表する事で、少しでも薬物の濫用が減ればと思い、筆を取りました。
私の親友のような過ちをする人を、もう見たくないのです。
パンドラの薬 岸亜里沙 @kishiarisa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます