2つの世界で猫は笑う

みこのこ

第1話 しぐれ

 2021年11月。今から1000年前に人知れずにおきた戦争。それを「人妖戦争」と

いう。この戦争で妖怪と人の仲は引き裂かれた。それぞれの代表が決めた。人は現世に、妖怪は隠世に。お互い、関わらないように生きていこうと。

 しかし、最近になって妖怪の数が増え、現世にあふれ出てくる者が現れた。それらの者たちは、現世の空気に侵され狂暴化する。狂暴化した者たちは、人に害をなす存在になってしまう。人は正当防衛として、また戦争をしかけてくるかもしれない。

「それを防ぐために、人との関係を正しきものに戻す。それがお前の役目」

 不本意だけど、妖怪になってしまいあの人もなくしてしまった。

「やり方はお前に任せる」

「御意」

 私は、片目を閉じて腰まであった髪の毛を短刀で切る。あの人はこの長い髪の毛を

気に入ってくれていたけれど、もう会うこともない人に足を引っ張られるのはダメだ。もう、忘れろ。


 やっぱり、甘いものは美味しい。なんでこの世に甘いものが嫌いな人がいるのかが凄い気になる。こんなにもおいしいのに。

 肩くらいまでの髪の毛を左右に揺らしながらパフェを食べる。

「おい、ほっぺにクリームついてるぞ。ガキみたいだからやめろ」

「うるさいなー。いいじゃん、クリームくらい」

 目の前に座る青髪の男は、月酒 なり。高校の同級生だ。こいつは、いつもボクを子ども扱いしてくる。

「その身長で、クリームほっぺにつけてるとかほんとにガキだから」

「はぁ?ボクはチビじゃない!」

「ちょうど1メートルが何言ってんだ」

 うぐぐ…。なんでこいつは、いつもこんなにうざいんだ…。いつかこいつをぎゃふんと言わせてやりたい。

【ぎー…】

「ん?」

 なにかが聞こえた。黒板をひっかくような音だ。不快な音だから、すぐに分かった。…なんでこんなおしゃれなカフェの中で黒板の音なんか聞こえるんだ?

「キャー!」

 今度は厨房から悲鳴が聞こえた。次から次へと不快な音が聞こえてくる。

さすがに、この悲鳴には他の客にも聞こえたのか、店には不安の空気が張り詰めた。

 どーしよ。なんか厄介ごとがおきそうだ。まだ、このパフェ食べきってないのに。

「なんか、やべーことおきてそうな感じだな」

 なりはいつものダルそうな声で言った。

「…行ったほうが良いかな」

 数秒のアイコンタクトで決めた。ボク達は、厨房に向かうことにした。

 厨房には、血まみれの女の人とその前に仁王立ちする20代後半くらいの男がいた。男の両手は血まみれになっていた。けど、台に置かれてある包丁は水洗いされた直後のようにきれいだった。

「そこに、誰かいるな?」

 あいつの死角に入っていたはずなのにすぐに見つかってしまった。

「見つかったけど」

「いや、もう確実に決定したじゃん」

 こいつ、人間じゃない。

 男は、腕を鉈に変えた。黒色だった目は血のような深紅に染まり、獲物を見るような目でこちらを見てくる。

 こういう時は、心を落ち着けて慎重に。

「ガキが何人来ても同じだよ。切り刻んでやる…!」

 この言葉でボクはカチンッときてしまった。

 なりは、あちゃ~という顔で男を見た。内心は笑てるんだろう。

「誰が…ガキだって?」

 ゆっくりと息を吐く。ボクが少しにらんだだけで、男は顔を青ざめた。

 ボクは、持っていたカバンの中から短刀を1本出した。鞘から刀身を見せるとともに、ボクの足元から桜が舞った。それは、だんだんとボクの全身を包んだ。

学校の制服から、普段の姿に戻ってゆく。ぶかぶかの黒いジャケットに、赤色の短パン。腰にはおかめのお面と、スピーカー。そして、獣の尻尾と耳。

「ひっ…!お、お前も…?待てっ…仲間同士の争いは…!」

「問答無用っ!」

 ボクは相手を床に押し倒し、顔の真横すれすれに刀を刺した。男の顔に傷がついた。さすがに殺しはしない。この前、相手に致命傷を負わせてさんざん怒られたばっかりだ。

 男は、気を失っている。しゅーという音と共に男の体はみるみるうちに小さくなっていった。最後は、イタチのような動物になってしまった。

 やっぱりこいつ妖怪だったか。

「着替える必要あったか?」

「だって、スカートって動きにくいし。あ、そっちの政府にもこのことちゃんと報告しといてよ」

「わーったよ」

 なりはスマホでイタチの写真を何枚か撮った。

 ボクはイタチに拘束用のお札を貼った。イタチをカバンの中に詰めた。

「さてと、帰るか」

「その前に、この女の人はどうする?」

 なりが、倒れていた女の人を指さしながら言った。そういえばいたんだった。

「うーん…。人政府の本部につれていくか~」

 あそこなら記憶も消えて、傷も癒してくれる。妖政府につれて行ってもいいけど、あっちの医者は手荒な治療しかしないからな…。

 そんなことを考えながら店を出ようとする。

「あ、お金払っとかなきゃ」

 ボクは、しんと静まり返った店内でお会計を済ませた。実際は、パフェの料金を払っただけだけど。

「それにしても、しぐれはすごいな。あんな一瞬で店内にいる客を全員寝かせちまった。猫のくせにな」

 ボクは、猫の耳と尻尾を揺らした。根元から消えていく。

「"くせに"は必要ないでしょ」

 最近、隠世からあふれ出てしまった妖怪が妙な事件を起こすようになった。それをほっとくと、また人間との戦争が始まってしまうらしい。それを防ぐために2つの世界の政府は、「狂暴化矯正委員」というものを作った。隠世からは妖力の強い者を、

現世からは霊力の強い者を。その2人でタッグを組み、狂暴化した妖怪をもとに戻す。これが、仕事。

 だが、その仕事の忙しさより志願者は少なく、現状はボクとなりの2人だけがこの職に就いている。

「ブラックすぎなんだよな~」

「じゃあ、なんでこの仕事に就いたんだ?」

「それは…内緒かな~」

 



 

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