第433話 【迷宮に向けて・3】


 その後、王妃様達と雑談をした俺は昼過ぎ頃に解散となり、宿へと戻ってくると宿の出入り口に姉さん達が居た。


「ジン君、おかえり~」


「あれ、姉さん達がこの時間に宿に居るって珍しいね。依頼に出掛けてたんじゃないの?」


「今日は早めに終わったのよ。明日、ジン達の見送り会するってヘレナが気合入れてるのよ」


 ルル姉がそう言うと、姉さんは「もう。ルルは余計な事は言わなくていいの!」と少し怒った様子でそう言った。


「別に一週間くらいで帰ってくるから、そんな見送り会とかしなくても良いんだよ?」


「でも王都から離れるんでしょ? それならやりたいの、駄目?」


「駄目では無いけど、まあ予定は開けておくよ」


 予定は開けておくと聞いた姉さんは、笑みを浮かべて「ありがとう。ジン君」と嬉しそうに階段を昇って行った。


「あっ、フィオロ。ちょっと良いか?」


「私?」


 姉さん達と一緒に階段を昇って行こうとしたフィオロに声を掛け、少し話があると言って俺はフィオロを自分の部屋に連れて行った。


「それで、何よ態々私を呼び出して」


「俺達が居ない間、王都の事は頼むって言いたかったんだよ。最近は大分平和になって来てるけど、いつ何処から問題が起きるか分からないからな」


「……別に、あんたに言われなくても私の知ってる範囲の人間は助けるわよ」


「変わったな、少し前までなら反論して来たのにな」


 神聖国の問題後、フィオロはより姉さん達との絆が深まり最近だと、普通の友達の様に接してる場面をよく目にする。

 姉さんからも昔より接しやすくなったと聞かされ、ゲームのフィオロと大分変って来てるなと最近凄く感じている。


「それで、話はそれだけなの?」


「いや、実はその頼みを言う序にお前に渡す物があってな」


 俺はそう言いながら、【異空間ボックス】からフィオロに渡すアイテムを取り出した。

 取り出したアイテムは、〝遊戯神の迷宮〟の最深部で採れた鉱石で作られた杖だ。


「何これ、持っただけで魔力の通りが凄く良いって感じたわ……」


「いずれ姉さん達も迷宮の最深部に来ると思うが、念の為にそこで採れた鉱石で作られた杖をお前に渡しておこうと思ってな。迷宮探索で使うかどうかはお前に任せる。もしもの時の為に、お前を強化しておこうと思ってリーザに頼んで作ってもらっていたんだ」


「へ~、これ気に入ったわ。今のも性能がいい物を使っていたけど、これは更にいいわね……本当にこれタダで貰っていいの?」


「王都を任せる駄賃と思えば安いからな、その代わり俺達が居ない間の王都は頼むぞ?」


 俺の言葉にフィオロは「ええ、分かったわ」と言って、嬉しそうに杖を持って部屋から出て行った。

 その後、夕飯までの時間は本を読んで時間を潰して、夕食の時間はクロエ達も宿に戻って来て一緒に食事をした。


「そう言えば、さっきフィオロちゃんが嬉しそうに杖を持ってたけど、あれってジン君がリーザさんに頼んで作ってもらった杖?」


「そうだよ。俺達が王都に居ない間、少しでも戦力を置いておきたいと思ったからね。今は大分、世界も平和になってるけどいつ何が起こるか分からないから念の為にと思ってね」


「まあ、それはしておいた方が良いからな。いつ何が起こるか、俺達には分からないしな」


「神聖国の問題が起きて、大分平和になったとは思うけどね~。悪魔とかも今じゃ、大人しいんでしょ?」


 そうレイが聞いて来たので、俺は師匠と行った事を皆に伝えた。


「一応、師匠の方から忠告はしてもらってるよ。ここ数ヵ月で悪魔の中でも実力の高い、フィオロやレドラス、そして大量の人間を生贄に召喚されたベルロスが力を封印されてる現状を悪魔界に知らせて、悪魔達にこっちの世界に来ないように忠告したんだ」


「あの悪魔達が来たとしても、今のお兄さま達なら対処できるんじゃないですか? そんなに、警戒するべきなんですか?」


「出来なくも無いけど、都市に被害を出さずに対処するのは難しいからな、前回は敵国の人間が被害にあったから良かったけど、もしもデュルド王国や同盟国の人が犠牲になる可能性もあるから、そういうのを防ぐために師匠から悪魔達に忠告してもらったんだ」


 俺達がいくら強いと言っても、都市の被害が全くない状態で悪魔との戦いは出来ないと思う。

 それなら最初から悪魔側を動けなくさせる為に、師匠に忠告してもらった。

 その俺の言葉にイリスも納得した様で、「すみません。考えが足りませんでした」と謝罪を口にした。


「取り合えず悪魔に関しては今は大丈夫だと思うから、俺達が注意するのはこっちの世界に居る人間だね。姫様もようやく、帝国関連の問題が終わったからそっち方面の警戒を強めてるから、もしも何かあったらすぐに連絡が来るようにしてもらってるよ」


「ジンお兄さま達って、普通の冒険者として活動してるのに国を守る役目もしてるんですね」


「それだけの力を持ってるってのもあるけど、俺達はこの国の事を気に入ってるからな」


 そう俺が言うとクロエ達も頷き、イリスはどうなんだ? と俺は聞いた。

 するとイリスは「私もこの国は大好きですよ」と、笑顔を浮かべて言った。

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