第423話 【イリスへの教え・3】


「一先ず、その事について考えてみるよ。悪魔達を外に出すのは、正直まだ俺としては難しいと考えてる所だから……」


「ジンがそう思うのは仕方ない。悪魔はそう思われて仕方ないからな」


 レドラスは俺の考えをくみ取り、少し考える時間をもらった。

 その後、俺は宿に戻って来て暇だったので宿の修繕をしながら、何かいい案は無いかと考えていた。


「——! おい、ジン!」


「ッ! な、なんだよリカルド。大声なんて出して、驚いただろ……」


「お前が考え事してて、板が大変な事になってるんだよ」


 そうリカルドに言われて手元を見ると、板を綺麗に整える為に削っていた部分がほぼ無くなっていた。


「……」


「珍しいな、考え事でもしてたのか?」


「ああ、ちょっとな……」


 リカルドは自分に聞ける話なら聞くぞと言ってきたので、俺は拠点でレドラスから聞いた事を伝えた。


「成程な、確かにそれは悩む案件だな……」


 俺の話を聞いたリカルドは顎に手を置き、暫く考えると「拠点を移すってのは考えてないんだよな?」と聞いて来た。


「それは今の所、考えては無いな。レンの研究所もあるし、家の場所も気に入ってるからな」


「う~ん、だとすると他に考えられるのは信用できるレベルの悪魔だけ、他の所に貸し出すとかじゃないのか? 掃除の能力が高いなら、それこそ貴族の家だったら力を封印されていたとしても、そこそこ能力もあるから清掃員兼万が一の用心棒枠として雇ってもらえそうだぞ?」


「それは俺も考えたけど、悪魔達が俺の監視網から離れた時に何をするのか分からないからな……」


 今でこそ俺の監視できる範囲内に居るから問題を起こしてないが、俺の監視外に行った際に問題を起こさないという信用は無い。

 悪魔のに中でそれをしないと思っているのは、フィオロとレドラス位だ。

 フィオロに関しては今更だが、姉さん達の事を好きだから問題を起こすとしても、それは姉さん達の為に行動した結果とかだろう。

 レドラスも性格的にそんな問題を起こして、今の生活を崩そうなんて考えはしないと、何となくわかって来ている。


「もう暫く時間があれば、今の悪魔達も信用出来て送り出せるんだが、まだそんなに経ってないからな」


「そこはジンの気持ち次第だからな……だが、そんなに心配ならお前の師匠が何か手助けしてくれるんじゃないのか? 悪魔の力を封印できる師匠なんだろ?」


「……そうだな、一度師匠の所に行って話を聞いてみるよ。話を聞いてくれて、ありがとな」


「あまりにも上の空だったからな、流石に心配して声を掛けちまったんだよ」


 その後、俺はリカルドに空島に行ってくると言って、師匠の家がある空島へと向かった。

 そして師匠の家の呼び鈴を鳴らすが、誰も出てくる気配は無く、俺は受け取っていた鍵で中に入った。


「師匠。入りますよ~」


 俺はそう言って家の中に入り、リビングと台所を見て回り師匠を探した。

 しかし、師匠の気配は全く無かったので、もしかして研究所の方かな? と思いそっちに移動した。


「ジン、どうしたの?」


「ナシャリーさん、お久しぶりです。師匠がどこにいるか知りませんか?」


「マリアンナ? マリアンナなら、ちょっと前に素材を探しに出かけてるから、数日帰ってこないわよ」


 研究所に入ると、ナシャリーさんだけが居て師匠の場所を聞くと、そんな言葉が帰って来た。


「タイミング悪かったな……」


「マリアンナに何か聞きたかったの?」


「はい。実は悪魔の事で、ちょっと悩んでいまして」


 師匠が居ないならと思い、俺はナシャリーさんに何故ここに来たのかその理由を説明した。


「悪魔の数が多くて暇してる悪魔が居て、それで困ってるのね……なら、何人か私達の方で預かろうか?」


「えっ!? 良いんですか?」


「何人か丁度、人手が欲しいと考えてたから良いわよ」


「ありがとうございます!」


 俺はそうナシャリーさんにお礼を言い、悪魔の中でも家事が得意な者を選んで後日連れてきますと約束をして、空島から拠点に移動した。

 そして拠点に移動した俺は、レドラスに師匠達の所で何人か預かって貰えると言うと、レドラスも乗り気で悪魔の中から誰を送るか選び始めた。

 こうして俺の新たな悩みの種となっていた問題は、リカルドの助言のおかげで数時間が解消された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る