第354話 【攻略争い・1】


 攻略再開日は結局、採取の時間もかなり取っていた為、30層のボスを倒して安全地帯で休む事にした。

 30層のボスも特に苦労する事無く、今度はクロエが一人で相手をして数十秒で倒していた。

 やはり迷宮で出会う魔物はそこそこ戦い甲斐のある奴が出てくるが、ボスはここまで5層のボス以外は全て一体だけなので簡単だった。


「ってか、迷宮内なのにここまで良い生活が出来るなんて……本当に神様って凄いな」


「そうだよね~、それに男女両方いるパーティーの為かお風呂とかトイレとか複数個あって、色々と気を利かせてくれてるよね」


 今俺達が居るのは、安全地帯からいつでも入れる〝迷宮住宅街〟という名称の場所でその中でも一番大きな家の中だ。

 迷宮住宅街はその名の通り、家が用意されている空間で31層の安全地帯から入った俺達なのに他の冒険者と遭遇した。

 その時、俺はこの空間はどこの階層から入れる特別な空間という事に気付き、その中でも特別な場所に用意された家が俺達の家だった。

 外見から凄く、貴族が住むような家で庭も付いてて、そこで訓練が出来そうだった。

 また管理人と呼ばれてる男性の執事も用意されていて、頼めばある程度の事は用意してくれるみたいだった。


「なんか凄い色々と揃えてくれてるよね……」


「何でこんなに色々と用意してくれてるんだろ?」


 そうクロエ達が疑問に思っていると、壁際に立っている執事に俺は視線を向けた。


「そういう質問って、貴方は答えてくれるんですか?」


「制限はありますが、多少でしたらお話できますよ」


「えっ、マジ? それじゃあ、何でこんな家とか用意されてるんだ?」


 そう俺が聞くと、執事は俺の質問に答えてくれた。

 まずこの空間だが、用意したのは当然この迷宮を作った〝遊戯神〟である。

 そして何故このような場所を作ったか、それは挑むであろう人間に探索以外で疲れを取れる為に用意したらしい。

 ただし、5層のに時点で自分を楽しませてくれるであろう相手にしかこういうのは用意していないとも言った。


「……という事は5層の時点で、神様の決めてる何かしらの基準を突破した者だけがこの空間に入れるという事か」


「そういう事になります。またその中でも特別、遊戯神様を楽しませた方には特別な報酬として家のグレードを上げていまして、ジン様達には最高級の場所を用意させていただきました」


「まあ、そうじゃなきゃここまで居心地のいい場所は説明がつかないよな……執事付きの家はここ以外はあるのか?」


「はい。最高級の家はここだけですが、一つ下のグレードは5つご用意されていまして、そこにも執事は付けられています。現在は、その内の2つが使われていまして、残り3つが空きの状態となっています」


 成程な、先行者有利では無く完全に神様を楽しませた者だけが選ばれると言う訳か……。


「あれ、二つも取れてるって事はもしかして、その内の一つにアンジュさん達が居るんじゃない?」


「その可能性は高いな……流石にその家が誰かは知れないよな?」


「それは個人情報ですので、流石にお話する事は出来ません。ただご連絡をする事は出来ますけど、どうしますか?」


「……知らない人だった場合は、気まずいからな」


 執事から連絡が出来ると聞いて、一瞬しようかなと考えたが相手が知らない人だった時の事を考えて止める事にした。

 もしも、何処かのタイミングで会ったら家の場所を教えて貰おう。

 アンジュさん達なら、きっと住宅の権利は貰ってるだろうしな。

 その後、執事に明日の朝起こす様に頼んで俺達はそれぞれ部屋に別れて休む事にした。


「ベッドもふかふかで全く体が疲れてない。本当に5層の時点で、神様に楽しんでもらえて本当に良かったね」


 翌日、俺達は執事のサポートもあったおかげでいつも以上に体が元気だった。

 前日の疲れなんて全く無く、逆に暫く休んでいたのかと疑う程に体に元気が有り余っていた。


「これは本当に住宅の権利を獲得できるか出来ないかで、迷宮の探索の速度が変わってくるな……第二探索者で姉さん達が迷宮に入る前に、情報を伝えてやった方が良いな」


「そうだね。でも、あのパーティーも中々強いし、フィオロちゃんが居るから大丈夫じゃないかな? 神様からしたら、悪魔が人間と同じパーティーってだけで興味が湧くかも知れないし」


 クロエの言葉に確かに、この迷宮の神様なら人間と共に行動をしているフィオロを見たら楽しむだろうな。

 その後、取り合えず姉さん達の事はまた後で考えるとして、俺達は31層から攻略を再開した。


「やっぱり、探索は楽しいけどボスがそこまで楽しくないね~。ここまで、私とクロエちゃん一人で倒してるし」


 再開後、俺達は順調に進んで現在既に35層を突破した。

 ここまで5層毎にボスが設置されているが、5層以降特に面白い要素も無くただ単にゴーレム系のボスと戦ってきた。

 ゴーレムといっても早かったり、硬かったり、しぶとかったりと多少の変化はあったが特に苦戦はしていない。

 逆に迷宮で普通に出てくる魔物の方が、俺達としては複数体居てそれなりに強いからある程度楽しんでいる。


「まあ、流石に俺達に合ったボスが配置されていたら、他の冒険者が攻略出来ない難易度になってくるからな……でもあの5層までの平均レベル系だったら、もっと楽しめただろうな」


 そう愚痴を零しながら俺達は昼頃だから住宅の空間に入り、昼食をとる事にした。


「ジン様、クロエ様、レイ様、レン様。少しよろしいでしょうか?」


 食事をしていると、執事から話しかけられた。


「どうした?」


「はい。こちら、ジン様達が不在中に届いたお手紙です。ご確認ください」


 そう執事から言われて出された手紙は二通あり、その内の一つにはユリウスの名が付いていた。

 そしてもう一つの手紙、そこに書かれている名前を見て俺は固まり、そんな俺の反応を見て、皆も俺の手元の手紙に視線をやった。


「執事。この手紙は本物の遊戯神からの物なのか?」


「はい。私も受け取った際は、驚きました。そちらのお手紙は間違いなく、遊戯神様からのお手紙になります」


 そう執事に言われた俺は再び手紙に目をやり、まずはユリウスからの手紙の方から見る事にした。

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